東芝が白物家電部門を、中国の美的(Midea、中国の発音ではメイダ)に売却するという報道が流れている(東芝は15日のリリースで報道を否定している)。
美的は白物家電の総合メーカー。中国の家電メーカーというと、まずは「ハイアール」を想像する人もいるだろう。
ハイアールは、白物家電でもテレビでも万遍なくカバーする印象がある一方、美的は、初期はエアコンを中心に扱い、洗濯機や冷蔵庫など白物家電全体に手を広げた。現在は白物家電では定番メーカーで、複数のメーカーの家電を揃える店には必ず美的の製品が売られている。
中国の「海信」(Hisense)や「創維」(Skyworth)はテレビが強いが、同じように美的は白物家電で強いメーカーというわけだ。美的の販売サイトを見れてもらえれば、エアコン・冷蔵庫・洗濯機・電子レンジ・ガスレンジ・調理家電などが売られている。
特設販売会のキャンペーン価格で
存在感を高めた美的
今でこそ、オンラインショッピングで大型家電も買うようになったが、2~3年前、それ以前は、単価が高いという金額的リスクと、大きくて重いという運搬リスクから、人々は家電を家電量販店で購入するのが当たり前だった(逆に今は閑古鳥だ)。
美的は、中国全土の「蘇寧電器」や「国美電器」といった家電量販店や、「カルフール」や「ウォルマート」などのスーパーの前で、頻繁にテントを広げて特設販売会場を設けては、キャンペーン特別価格と称し、低価格で販売していた。
当時筆者が書いた記録によれば、6年前となる2010年、斜めドラム型洗濯機が日本では8~20万円、中国でも2000元(約2万8000円)はした時代、美的はキャンペーンでドラム型洗濯機を1499元(約2万1000円)という低価格で販売していた。
特設販売会場で販売することで、人々に美的の存在をアピールし認知され、美的は存在感を高めていった。
ただ、当時は家電を買うというのは、中国の人々にとって相当チャレンジングなことだった。今でこそ都市部の人々が裕福になり、家電価格は下がり、いいものが安く買えるが、2000年代は人々の月収が日本円で1万円だの2万円だのというときである。
いくら有名な中国メーカーの家電が安かろうと、品質が不安で製品を買いたくないという考えが一般的であったように思う。
さかのぼること2000年代前半、ないしそれ以前の、今よりずっと貧しかった頃の中国では、意外にも都市部の家庭に日本メーカーの家電が普及していた。
それも新しいモデルではなく「チャンネルを回す」ようなブラウン管テレビや、「松下」印のパナソニックの白物家電など、年代物の家電を大切に使っていた。
当時、東芝は中国で大々的にCMを流しており、現在の30代より上の世代では、当時流れていた東芝のCMの歌を歌える人は多い。特に中高年の中国人は、日本の家電が頑丈であるということを身をもって知っている(だが、現在の消費の主流はそれをあまり知らないもっと若い世代だ)。
中国人は日本の家電に絶大なる信頼を置いていたが、美的が当時頻繁に行なった特別価格キャンペーンは、そんな中国人の心を揺さぶるほどの低価格で、多くの人が美的に飛びついた。
そして使われるや、口コミで美的でも大丈夫という評価が広がっていった。ちなみに、ほぼ同時期に創維や海信などのテレビメーカーも、液晶テレビ特別価格キャンペーンを実施している。
加えて中国メーカーの製品が対象となった政府の買い替えキャンペーン「以旧換新」や、農村新規家電購入キャンペーン「家電下郷」も後押しして、多くの都市部で「家電を買うなら日本か韓国」から「中国の家電でも悪くない」へと、一気に風向きが変わっていった。
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