
今回のことば
「白物家電のCMは終息する。だが、東芝全体のイメージ戦略は多くの方々に理解してもらいたいと考えており、サザエさんでのテレビCMは継続していく」(東芝・室町正志代表執行役社長)
パソコンと家電は、もう東芝の事業計画に含まれていない
東芝は、2016年度事業計画を発表。2016年度の売上高は4兆9000億円、営業利益は1200億円、当期純利益は400億円を目指すとした。
現時点で発表されている2015年度の業績見通しは、売上高が6兆2000億円、営業損失が4300億円の赤字。「2016年は全事業の黒字化を見込む」(東芝・室町正志社長)と強気の姿勢をみせるが、売上高は21%減の大幅な減収を計画する。
実は、2016年度の事業計画のなかには、パソコン事業と家電事業の数字はすでに含まれていない。
2015年度見込みで、パソコン事業と家電事業の売上高は7300億円としており、これを除くと、2016年度の売上高計画は前年比10%減の水準に留まる。
いずれにしろ、この計画発表でも示されるように、東芝にとって、もはやパソコン事業と家電事業は、2016年度の事業計画の中には盛り込まれていないのは明らかなのだ。
家電事業については、2016年3月17日に同社が発表したように、中国の美的集団(Midea)に事業譲渡することで基本合意書を締結。「今月末までに最終合意し、クロージングはそこから3ヵ月以内に行なうことを予定している」(東芝・室町社長)とする。
美的集団には、家電事業を担当している東芝ライフスタイルの株式の過半数を譲渡。東芝はマイノリティーの資本比率に留まる。だが、新たな体制下でも、従業員および国内外拠点は維持する方向で協議しており、さらに、東芝ストアを含む販売網との取引も継続するという。
サザエさんのテレビCMの意味
注目されるのは、東芝ブランドをいつまで活用するのかという点だろう。
これについては、室町社長が次のように語る。
「美的集団は、東芝ブランドを維持することを明言しており、東芝ストアについても、商流を維持する方向。東芝のブランドは、国内市場で維持できると考えている。さらに、当社が得意としてきた東南アジア市場においても、美的集団が東芝ブランドを引き続き採用していくという理解をしている」。
つまり、国内および東南アジアにおいては、東芝ブランドの家電製品が、引き続き、販売されることになるというわけだ。
また、テレビなどの映像事業は、家電事業を美的集団に譲渡した後も、東芝グループ内で事業を継続することを表明。「REGZAについては、今後も東芝が開発および販売をしていくことになる。モデル数を絞って製品を開発していくことになる」と語った。同社では、2016年度のテレビの販売計画として60万台の規模を想定。国内だけの販売に一気に絞り込みながらも事業を継続する考えだ。
室町社長は、「家電事業は、東芝を支えてきた事業であり、ブランドイメージでも重要な財産であった。その過半を委譲することには忸怩たる想いがあるが、構造改革の一環としてこれを断行する」とする一方、「家電事業は、収益性が悪かったため、新製品開発の資源投入が十分にできなかったことは反省材料。だが、今後は、外部資金が導入されることに加えて、美的集団が持つコンプレッサーやエアコンなど、競争力を持った技術も活用できる。新たな家電製品を市場に提供できるように進めていきたい」と語った。
さらに、「白物家電のCMは終息する。だが、東芝全体のイメージ戦略は多くの方々に理解してもらいたいと考えており、『サザエさん』でのテレビCMは継続していく」とも語る。
日曜日夕方にフジテレビ系で放映される人気アニメ「サザエさん」は、もともと東芝の1社提供番組であったが、1998年以降、複数社による提供へと移行。だが、このサザエさんを見て、東芝のテレビCMに多くの人が触れてきたのは明らかだ。子供のころから、東芝のテレビCMを見て育った日本人が多いのも、このサザエさんの影響が大きい。東芝にとっても、ブランドイメージを維持するためには、サザエさんの放映時間に、テレビCMを流し続けることは重要な意味があるといえるだろう。

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