【前編】『KING OF PRISM by PrettyRhythm』西浩子プロデューサーインタビュー
社長に「1000人が10回観たくなる作品です」と訴えた――『キンプリ』西Pに訊く
2016年03月21日 15時00分更新
タイアップもお金もない“竹槍部隊”
―― とはいえ、「女児向けゲーム」からスタートした作品を、「女性向けアニメ劇場作品」として制作する……となると、ハタから見ても乗り越えるべきハードルがあったのではないかと思います。たとえば、製作委員会に入っている各社で意見が分かれたりしませんでしたか?
西 『KING OF PRISM』の製作委員会そのものはタツノコプロさんとうち(エイベックス・ピクチャーズ)だけで、タカラトミーアーツさんにご協賛いただいているという3社間でのやりとりだったので、意見が分かれることは特にありませんでした。
でも、ハードルは別のところにありました。3社で構成されているということは、協業する会社も少ないということで、その結果、出資額が限られてしまうのです……。
菱田監督もニコ生で仰られていましたが「スポンサーもタイアップも何もありません」という状態で。
―― 本当ですか!?
西 本当に、何もないんですよね。お金もないしバックアップもない。『キンプリ』が当たらないと次はなくて、今回仮に順当に利益が出たとしても、この作品に魅力を感じていただいて「うちもお金を出します」と仰ってくださる会社がいらっしゃらない限り、無謀な賭けを2回もすることはできないんです。
―― とは言え『キンプリ』は全国上映まで漕ぎ着けましたよね?
西 ようやく『何かできるかな…?』ぐらいな空気になってきました。ですが現実は続編を作れる確証もまったくありませんし、正直何も決まっていません。
よく言うのですが、私たちは常に身ひとつの竹槍で攻めている歩兵なんですよね、感覚的には。
今、アイドルアニメは数多くありますし、スマホゲームなども含めると“戦うためのリソース”をふんだんに使えるところがほとんどです。
でも『プリティーリズム』は、アニメファンの間には知名度がないし、後ろ盾もない。そんななかで『キンプリ』を何とか作ろうと、かなり無理をして作りました。これを2回もできない、というくらいに。
西Pが無茶を承知で劇場版に踏み切った個人的理由は?
「“菱田監督が作るものは面白い”ということを証明したい」
―― どうしてそこまで無理をされたのですか?
西 私は入社して1年目に『プリティーリズム・ディアマイフューチャー』の途中から作品担当になったのですが、最初は、私に女児向け作品の担当が務まるのかなと少し不安でした。でも、『プリティーリズム』シリーズはそんな不安を吹き飛ばすくらいお話が面白くて、大好きになりました。
「女児向け」ということで視聴リストから外してしまうアニメファンの方もいると思うんですけど、もっと『プリティーリズム』を知ってもらいたかった。
作品自体は、知ってもらいさえすれば、絶対面白く観てくださるはずだと信じていました。ネットの感想などを見ても、「友達に勧められて観たらすごくハマった」という声はあっても、「観たけど面白くなかった」という感想は見かけなかったので。
もうひとつ、私たちスタッフの個人的な動機としては、こんなに面白いものをつくる菱田監督をもっと世に知らしめたいという気持ちがありました。
私もタツノコプロの依田健プロデューサーも、あの方をどうにか人気監督にしたいという思いがあり、菱田監督が作る作品が面白いということを証明したい、と。
だから、儲かる儲からないよりも先に『菱田さんに好きなようにつくってもらったらすごく面白い作品ができるはずだ』『ファンが新しく増えるはずだ』という心の中の確証だけがあって、それを信じて意地だけでここまで来ました(笑)
“リピーター獲得数”が勝負どころになる
―― とはいえ、ある程度まとまった費用がないと劇場版は作れません。西さんご自身は、社内でどのようなアクションをされましたか?
西 制作費は、無理くり作りました(苦笑) そもそも『プリティーリズム』自体が、視聴者層がお子さんということもあり、社内では売り上げ的に注目されているタイトルではありませんでした。DVDの売り上げだけを見ると、すぐにGOサインをもらえるような状況ではなかったですね。
―― そのような“マイナス地点”から、どのように会社に制作費を通したのでしょうか?
西 会社で企画を通すときも、苦手な数字と格闘してなんとかロジックめいたものを付けていった感じです。『プリティーリズム』劇場版のシリーズやファンイベントを重ねて、どれだけお客さんが来てくれるかという数字を積み上げて何とか黒字にもっていき、会議ではその数字を見せて説明していきました。
数字が積み上げられたのは、コアなファンの方々のおかげでした。以前から、『プリティーリズム』シリーズは人数は少ないけど熱心な方々に支えられているという実感がありました。
ですから、“コアなファンの方が何回見に来てくれるか”に勝負はかかっているだろうと思いました。
リピーターのお客さんがついてくれるといいな、という気持ちでした。
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