PayPalとジャパンEコマースコンサルタント協会(JECCICA)は3月2日、東京都内で「中小EC企業向け・2016年EC戦略白書」に関する共同会見を開催。取りまとめた白書についての解説を行った。
同白書はPayPalとJECCICAが共同で制作したもので、EC(電子商取引)サイトの利用動向調査から得られた情報を基に、国内のECサイトが抱える課題や問題を洗い出しつつ、中小ECサイトがビジネスを拡大するうえでの指針を示すことに狙いがある。
PayPalはアメリカで17年前に誕生し、何らかの決済をともなう世界のオンライン産業の発展と共に成長してきた。そうした背景から、国内外のECトレンドの差異や課題をよく把握している。
一方のJECCICAは、1000社を超える中小ECサイトのほか、2万人を対象とした利用者の大規模調査を基にしたデータをまとめ、中小ECサイトが知りたい利用動向や潜在的な課題を洗い出している。国内でも年率2桁成長を続けているといわれる一般向けECサイトの市場だが、最近では海外からの利用というインバウンド需要も増えている。感覚的に理解している部分も含め、意外な盲点が洗い出されていて興味深いデータになっていた。なお、白書そのものはJECCICAのサイトでPDF形式のファイルで閲覧可能だがここではダイジェストを紹介していく。
■なぜECサイト利用は大手に偏るのか?
まずECサイトの利用動向としては、直近1年での利用経験としてモール型サイト上位3社(楽天市場、Amazon、Yahoo! ショッピング)が87%を締めており、次いでそれ以外の大手ECサイトが45.2%、中小ECサイトが7.3%となっている。
大手を利用する理由としては、商品点数が多く、すでにユーザー登録を行っていて使い慣れていることが挙げられている。 中には「有名だから」という理由もあり、一度知って使い始めたら、そのまま使い続けるという傾向が見て取れる。
逆に中小ECサイトを利用しない理由は、そのまま大手サイトを利用する理由の逆の内容になっている。“著名でないからサイトに到達できない”というだけでなく、品揃えや信頼性の面で不安を持っていることが理由にある。会員登録の面倒さやメールマガジンが送られてくることを理由に挙げている利用者もおり、会員獲得とその囲い込み策が、昨今ではマイナスに作用している様子もうかがえる。
今回発表された白書では、「一度獲得した利用者を逃さずリピーターになることを期待する」という戦略が裏目に出やすいことを指摘している。たとえば、会員獲得の際に入力させた虎の子の会員情報が、実は正確な情報でない可能性が高いというのは典型的だ。
アンケートによれば、メールアドレスや性別、名前を正確に入力していないケースが目立ち、これはメールマガジンやダイレクトメール(DM)など、ターゲティング広告に狙い打ちされることを避ける狙いがあると考えられる。
一方で住所や生年月日、電話番号は比較的正確に情報が入力されることが多い。これはECサイトという性質上、商品の受け取りや決済に必要な情報だからだろう。
これらの情報を総合すると、囲い込み戦略における中小ECサイトの担当者側の誤解と、実際の利用者の意識のズレが、こうした齟齬を生んでいる可能性が高いということになる。特に利用者側の視点では「入力したカード情報や個人情報が流出したり悪用される可能性がある」と認識する傾向があり、相手に提供する個人情報は極力少なく抑えたいと考えるだろう。
最近、PayPalでは「ゲスト決済」の重要性をアピールしていて、一般的な会員登録フローと併用する形で、会員登録を強制することなく決済が完了する仕組みも提案しており、最近では実際にヤマダ電機のECサイトで導入されている。後ほど解説する「ID決済」も含め、利用者に安心感を与えつつ、最後まで買い物を完了させる流れを作ることが重要だという。
モバイル利用増大における傾向と対策は?
もう1つ興味深いのはEC利用のモバイルシフトだ。こちらも感覚的にはわかるものの、数字で見る実態は以下のとおりだ。
まず、全体でみればスマートフォン利用比率は24.2%と、まだ低い印象を受ける。ただし年齢別でみれば20代など年齢層が若いほどスマートフォンの利用傾向が高く、高齢になるほどPCの利用比率が高くなる。性別による差も顕著で、20代男性ではスマートフォン利用比率が37.5%なのに対し、20代女性では過半数お65.2%にのぼる。具体的な利用サイトについては白書で言及がないのは少々もったいない気もする。
そしてモバイルシフトで重要なのは、"ECサイトのモバイル対応"だ。
PCとは画面比率やサイズが異なるため、スマホへの対応や、専用アプリ提供が重要になってくる。
PCサイトをそのまま表示させる弊害としては、情報量が多すぎて可視性が悪いことに加え、何度も入力を促したり、購入までのステップを複雑にすると、ユーザーが利用を途中で止めてしまう(“カゴ落ち”と呼ばれる)可能性が高まることが挙げられる。
前者はサイトの最適化が重要となるが、後者については情報入力を最小限にして決済をシンプルにする「ID決済」の導入が1つの解決策となる。ID決済は「デジタルウォレット決済」とも呼ばれ、すでに個人情報や決済情報入力を行っている他社のサービスを経由して決済を行う仕組みだ。
Yahoo!や楽天、Amazon、そしてPayPalが有名だが、スマートフォンの世界ではau IDやドコモIDによる決済も選択肢に入ってくる。実際の購入プロセスは、商品のカート画面でID決済へのログインを行うだけで完了するので、非常にシンプルだ。
PayPalによれば、毎回ログインせずに一度でも当該デバイスで購入プロセスを経ていればログイン操作なしで2回目以降の購入が可能になる「ワンタッチ決済」を今後日本でも提供していくとのこと。ID決済には「ECサイトに直接個人情報や決済情報を渡さない」(=ECサイトからの流出が防げる)という副次的なメリットもあるため、前述の中小ECサイトが抱える課題を解決する一助にもなる。
なおJECCICA代表理事の川連一豊氏によれば、サイト側に実装されるID決済の選択肢は多ければいいというものでもなく、数が多いと選択のためのスクロール操作が必要となるため、「2〜3種類程度が望ましい」。結果として、数あるID決済もスマートフォンの世界では2〜3程度に収束していくのではないかと指摘していた。