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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第336回

スーパーコンピューターの系譜 SMPで覇権を目指したAlliant FXシリーズ

2015年12月28日 11時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/) 編集●北村/ASCII.jp

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SMPマシン2つを無理やり合体させたような構造の
FX/1、FX/4、FX/8

 1982年の創業から3年後の1985年にAlliantが発表したのがFXシリーズである。ラインナップはFX/1、FX/4、FX/8の3種類となっている。

 そのFX/8のシステムのイメージ図が下の画像だ。FXシリーズは、数値計算を主に行なうCE(Computational Elements)と、コンソールとかネットワーク、I/OなどをハンドリングするIP(Interactive Processors)という2種類のプロセッサーからなる、ヘテロジニアスSMP(Symmetric Multi Processor:対称型マルチプロセッシング)というこれもまた独特なシステムであった。

FX/8のシステム。この図そのものは“The Performance of the Alliant FX/8 on Two Sets of Benchmarks”という論文のものだが、製品カタログにも掲載されている。あくまでも概念図なので、メモリーユニットが円形をしていたり、プロセッサーやキャッシュがその周囲に円柱状に構成されているわけではない

 CEとIPはまったく異なるアーキテクチャーなので、その点ではヘテロジニアスなのだが、複数あるCE同士、IP同士はSMPで動作するという構成である。

 言ってみれば2種類の異なるアーキテクチャーのSMPマシン2つを無理やり合体させた感じである。実際の接続方法は、下の画像のような構造である。

SMPマシン2つの接続方法。これは評価に利用したイリノイ大のFX/8システムの構成と思われる。出典は“VECTOR PROCESSING ON THE ALLIANT FX/8 MULTIPROCESSOR”

 FX/8のシステムに戻るが、どうもIPの方は3プロセッサー単位で増減が可能なようで、このシステムではCEが8つにIPが6つという構成で運用されていたようだ。フル構成の場合、IPの方が2×3ではなく4×3で接続される形になったと思われる。

 各々の中身であるが、まずCEは5ステージパイプライン構造を持つインストラクション・パイプラインと、整数演算と浮動小数点演算、さらには浮動小数点のベクトル演算のそれぞれの実行ユニットが用意されている。

 命令セットはMC68000の互換(MC68020互換と表記している資料もあり、どちらが正確なのかは判断不能)を保ちつつ、そこにベクトル演算などを追加した独自拡張となっている。

 そのベクトル演算にはWeitekのWTL1064/1065が利用された。ちなみにCEはVector(64bit×32)、Address、Inteher、FPUの4種類のレジスターがそれぞれ8組づつ搭載されており、サイクル時間170ナノ秒(5.88MHzほど)で動作した。

 浮動小数点演算は、Vectorを使うとこの170ナノ秒ごとに倍精度の加算と乗算を1回づつ行なえるので11.8MFLOPSほどの性能となる。

 一方整数演算は2.5MIPSという数字が残されている。キャッシュは容量64KBのSRAMをインターリーブ構成で利用している。各々のアクセス時間は85ナノ秒で、帯域は188MB/秒となる。

 実はこれらの数字は、本来のMC68000/MC68020よりもだいぶ高い。MC68020は16MHz動作で4.9MIPSでしかなく、5.88MHz動作では1.8MIPS程度でしかない。MC68000はさらに低く、12.5MHz動作で2.2MIPSほどなので、5.88MHzでは1MIPSそこそこである。

 CEではあくまでも命令セットのみ互換となっており、実際にはCMOSベースのゲートアレイを多用して構築されたらしい。このCEはボード1枚で実装できたそうだ。

 一方のIPは、素直にMC68012を利用して製造された。こちらはOSを動かしたり、周辺機器を接続したりという用途にのみ使われたので、別に高性能である必要はなかったのだろう。

 ただI/Oを多く必要とする場合は、CPUの処理能力も必要となるので、最大12のIPを利用して処理負荷を分散するという仕組みだ。

 したがって、性能という意味では通常CEのみを対象に評価するが、1CEあたり2.5MIPS/11.6MFLOPSというのはそう悪い数字ではなかった。

 加えてソフトウェア的にもこのCEを複数組み合わせて利用できるDetached Modeと、それぞれをダイナミックに切り替えられるDynamic Complex Modeを提供するなど、利用効率を高める仕組みもきちんと搭載されていた。

上がDynamic Complex Mode、下がDetached Modeである。Detached Modeでは左半分のCEが特定の処理に専有的に割り当てられるが、Dynamic Complex Modeではすべてを別々のジョブに分散させるかたちで、しかも両モードを動的に切り替え可能とされる。出典はカタログである

 この性能の高さと価格の安さ、さらに設置面積の小ささなどもあり、初代FXシリーズはそれなりに売れたらしい。ラインナップは先にも述べたがFX/1とFX/4、FX/8の3つが用意された。

FX/1。PC用のフルタワーの奥行きを1.5倍、幅を2倍にした程度のケースに収まる。CEが1枚なので、この構成ではIPも3つ程度であったと思われる。なお、写真は本体だけなので、実際には別途ストレージが必要になる

FX/1と高さ/奥行きは同じで、幅が4倍くらいになっている模様。本体の右にある背の高いものはテープドライブで、手前の蓋を開けてオープンリールテープ(スモークの窓にちらっと見えている)を取り付ける

 構成はFX/1がCE1つ、FX/4がCE4つ、FX/8がCE8つという形だ。IPの数は顧客の要望に合わせて、最大12個の範囲で選択できたようだ。

→次のページヘ続く (第2世代のFX/40とFX/80

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