第5巻『ネットコミュニティの設計と力』監修者インタビュー
コミュニティの未来とは? その疑問(=はてな)に近藤淳也氏が答える
2015年12月05日 18時00分更新
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よりよいネット・コミュニティはどのようにつくられるべきかを解き明かす好著『ネットコミュニティの設計と力』の監修を務めたのは、アスキー読者にはお馴染みであろう「はてな」創業者の近藤淳也氏。
近藤氏が手掛けた、人力検索はてな・はてなブログ/ダイアリー・はてなブックマーク……いずれも代えの利かない独自のコミュニティが構築されており、かつサービス自体が“長生きしている”ことが特徴だ。
今回は、mixi・Twitter・Facebookと次々に現われる巨人たちを向こうに回し、14年間コミュニティサービスを構築・運営し続けてきた近藤氏の経験を例に出しつつ、書籍『ネットコミュニティの設計と力』に込めたコミュニティ構築・運営に関する想いを語っていただいた。
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角川インターネット講座 (5) ネットコミュニティの設計と力 つながる私たちの時代KADOKAWA/角川学芸出版
14年間のコミュニティ運営から見えてきたもの
―― はてなは来年15周年を迎えます。多くのネットサービスが数年で飽きられ、ネットの進化に対応仕切れず、あるいは海外サービスに敗れ衰退するなか、これだけの間サービスを続けてきたというのは注目すべきことです。
近藤 「人力検索はてな」を始めたのが2001年7月でした。端的に言えば「アイデアを思いついたので作ってみた」という感じですが(笑)。
―― グーグルが日本で本格的にサービスを開始(法人設立)したのが、2001年ですから、自然言語処理などもまだメジャーではなかった時期ですね。そんななか、人(ユーザー)が調べて答えるところから、コミュニティができたというイメージでしょうか?
近藤 父が検索エンジンを使いこなせず苦労しているのを見て、なんとかしてあげたい、と思ったんですね。演算子はもちろんですが、検索キーワードを2つ、3つと組み合わせて、というのは父には難しかった。
でも、文章で質問できるなら誰でも使える。自然文で探せる仕組みがあれば、簡単にインターネットから欲しい情報を引き出せるはずだと思ったんです。
しかし「誰が答えるか」という問題がありました。コンピューターには難しい、では人間しかない。自社で回答者を揃えると大変だ――だったら検索が上手なユーザーと、質問者をマッチングさせれば良いだろう、と。
コミュニティを育てる1つの解は「一般ユーザーの力を信じる」こと
―― たしかに声で検索ができる現在でも、ユーザー同士でのQ&Aサービスは人気です。そのマッチングというところから、はてなブックマークに見られるようなユーザーコミュニティが育っていった?
近藤 はてなとしてコミュニティサービスを志向してきた、というわけではないんですね。今でいうところのブログですが、2003年に「はてなダイアリー」ができ、2005年にはソーシャルブックマークサービス、「はてなブックマーク」など様々なサービスが生まれました。
1つ1つには目的がありますが、コミュニティを志向したことは1度もないんです。日記を気軽に書けるようにする、ブックマークを共有できるようにする、というそれぞれの目的に特化して一所懸命開発してきました。
だから今回、『角川インターネット講座』のネットコミュニティの巻を監修してください、と依頼されて、「そうか、僕たちがやってきたのはコミュニティだったんだ」と気付かされたくらいで(笑)。
―― そうだったんたんですね(笑)。しかしそれぞれのサービスはユーザーの集合で成立していて、ユーザー間のやりとり(インタラクション)が生まれていました。そんな中ユーザーが喜ぶようなサービスを設計、提供、運営していたことが結果としてコミュニティになったのではありませんか?
近藤 人力検索だけでは正直なところ人があまり集まらなかったんです。その後、はてなアンテナが生まれ、やっと数万単位のユーザーが使ってくれるようになって、はてなダイアリーでそれが数十万台に。その都度新しいユーザーが加わってくれて今のはてながあります。その過程で共通するテーマがあるとすれば「一般ユーザーの力を信じる」というものがあったかもしれません。
―― 一般ユーザーの力。
近藤 はい。たとえば人力検索であれば、専門家を呼んできて普通のユーザーの質問に答える、といった一種非対称な関係ではなくて、「誰でも質問者になれるし、誰でも回答者になれる。でもきっとそれでも質の高い回答を得られるはずだ」ということですね。
ブログにしても、書き手に著名な人を集めてきて――ではなく、みんなが自分の日常や人生を書いてください、そうしたらきっと面白くなりますから、という根本的な信頼ですね。みんなそれぞれ面白いっていうことです。
(次ページでは、「コミュニティサービスの成功には“内製”が必須」)
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