スーパーマーケット・エブリイは、15期連続の2桁成長という急伸を続ける食品スーパー業界でも名の知れた広島の企業。独自のサービスや従業員教育で注目を集める同社は、東京のスタートアップ企業・リレーションズの力を使い、10月1日より店舗でのO2Oアプリ施策を始めている。
その裏側には、インティメート・マージャーのDMPを活用した”精密な顧客分析”やブログウォッチャーのプッシュ通知基盤による”顧客アプローチ”、さらにトレジャーデータによるビッグデータ解析、Tableau(タブロー)による分析ツールと、地方の一スーパーのアプリらしからぬ体制がしかれている。
エブリイとリレーションズがアプリによる取り組みでの見本として設定しているのは、良品計画(無印良品)や東急ハンズ、ファーストリテイリング(ユニクロ)のレベル。前回記事では、スーパー業界の慣習を打ち破るエブリイの取り組みを紹介したが、今回は実際のアプリの体制や施策の目的をリレーションズ側にも聞いてみた。
データマーケティングでの視点をレガシーな業界はいかに持つべきか
エブリイにおけるスマホでのO2O施策は、広島市内の4店舗(可部店、船越店、海田店、長楽寺店)で実験的に実施されている。主にスマートフォン向けにAndroid、iOSでのアプリを利用ユーザーに提供。最新のチラシ情報や個店ごとの鮮度の高い商品入荷情報、イベント情報などを発信する。
お気に入り店舗の登録設定をすれば、ホームタブの記事フィード、チラシタブ、お知らせタブでのプッシュ通知を閲覧するだけのシンプルな仕組みだ。利用するユーザーは、近隣の買い物客、特にもともとエブリイが好きなファン層を想定しているという。
エブリイの売りは、業界の慣例にとらわれない徹底した差別化によって、生鮮食品ならではのリードタイム短縮やコスト圧縮によるメリットを、顧客の満足度に落とし込んでいる点だ。
商品の価格や品質の追求、スタッフ体制の整備は全国でも随一だが、都内大手チェーンのような詳細な顧客像設定に基づいたデータマーケティング的な視点は持っていなかった。
エブリイ側で今回のO2Oアプリを束ねるエブリイの小林大作氏によれば、もともと同社は他部門同士の連携が強い企業で、経営企画、営業企画、システム物流が店舗や商品も含めた垣根のない連携を目指している。しかし、今回のようなマーケティング手法の前例はなく、各部署から集めた情報の出し方から、それをどのようにアプリ運用に乗せていくかなど、初挑戦となる部分が多かったという。
各店のスタッフらが自信をもって提供する店頭の“コンテンツ”を、ウェブに出すのか、アプリに出すのか、チラシに出すのか、何が最も適切なのかについて、そもそも基準となるようなデータもなかった。そのため、トライ&エラーでリレーションズとともに改善案をお互い提案しつつ、高速でPDCAをまわしていく仕組みを敷いている。
アプリの滞在時間よりも情報の開封率を重要指標として、いかに鮮度の高い情報を、エンドユーザーが望む形で提供できるかがカギとなるという。アプリを使った施策をすることが重要なのではなく、顧客のパーソナライズや来店捕捉、求める価値の定量化ができることで、ようやく同じラインに立てるという認識だ。
これまでおおまかにとらえていた来店人数ではなく、”店舗ごとのユニークユーザー数”はどれくらいで、どのような消費傾向にあり、どういったサービスを求めているのか。東京中心の成城石井やイオン、セブン-イレブンといった大手企業であれば進められているようなデータマーケティングに、地方での挑戦が始まっている。