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田中社長に聞いたコミュニティ、人材登用、パートナー施策、R&Dの意義

さくらインターネットがクラウド市場で負け組にならない理由

2015年10月29日 07時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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強力な人材を惹きつけるさくらの魅力とシフト

大谷:あと、最近感じるのは、人材面での充実です。UNIXユーザー会の法林浩之さんやゲヒルンの石森大貴さんほか、DMM.makeを立ち上げた小笠原治さんも出戻ってきましたし、お話しした限り、コミュニティ界隈の方々もかなり強力です。今、さくらさんが人材にフォーカスする理由はなんなんでしょうか?

田中:昔は、うちも足りない人員を部門ごとでとっていた感じで、あまり人材にフォーカスしていなかったです。これは人手不足だったどのベンチャーも同じでしょう。でも、ここ3~4年は人材の取り方や就業環境は意図的に変えてきました。とにかく働きがいと働きやすさを充実させようと考えました。

まず働きがいという点。優秀な人の近くで仕事すると、自分も優秀になります。仕事自体がやりがいになるんです。そうなると人材がとても重要になるので、採用のやり方も大きく変えました。

「優秀な人の近くで仕事をすると、自分も優秀になる。だから採用のやり方も大きく変えました」

働きやすさという点に関しては給与で他社に負けないようにしようと。給与で他社に勝つのは難しいけど、給与が安いから他社から転職できないという状況はなんとかしたいと考えました。こうして応募条件を変えると、今まで来なかった人がけっこう来てくれるようになりました。運用の部分は派遣社員にお願いすることも多かったですが、最近は正社員も増えています。

来る人のレベルも上がると、今までの人のレベルも上がります。当社はもともといた人たちも優秀なのですが、日々の仕事に忙殺されると、スキルがとぎすまされなくなります。でも、優秀な人が来ると、スキルを上げる意識が生まれてきます。

大谷:田中さんが直接声かけて一本釣りすることとかもあるんですか?

田中:社員が声をかけることが多いですが、法林さんとかは確かにそうですね。うちとしては、コミュニティの威力を体感している方を増やしたかった。その点、法林さんって歩くコミュニティみたいな人じゃないですか(笑)。メインの仕事としてコミュニティにコミットするのはチャレンジだったかもしれないですけど、いっしょにやりたいなと思って声をかけさせていただきました。

「安価に提供できる」パートナー施策の裏側

大谷:次にパートナー戦略について聞こうと思います。今までさくらさんって基本独立系で、あまりベンダーの色とかなかったんですけど、最近はマイクロソフトと協業したり、他社のデータセンター事業を巻き取ったりしています。ここらへんのパートナー戦略の意図を教えてください。

田中:まず当社の変わらないコアコンピタンスとしては、すべてのサービスを自社内で完結させる「垂直統合」というキーワードがあります。これはおそらく変わりません。ただ、販売というのは必ずしも自社の強みではないですし、お客様が作ったものは水平分業でつながなければならないと思います。

今まではそれすら垂直統合を目指していたんですけど、お客様のニーズのあるところすべてに開発を分業するわけにもいきません。なので、自社で作り上げたコアコンピタンスの輝くサービスを水平分業しようという方針を固め、この2年前からマイクロソフトとの提携を進めています。

マイクロソフトの場合、Windowsのようなすごい強い武器がある一方、Azureだけでまかなえない用途があることに気がついていました。なので、「AzurePack」のように彼らのソリューションをさくらのインフラに載せるといった取り組みを始めました。

マイクロソフトさんとのパートナーシップは一昨年からスタートしていますが、実際需要も多いです。Microsoft Azureは東日本と西日本にリージョンがあるのですが、正直両方とも同じようなリージョンなので、安価に他の拠点にDRしたいというニーズはけっこう高いです。最近はネットアップとも協業していて、石狩データセンターにあるストレージに気軽にDRできます。こういう新たな価値を提供できるのがパートナーシップのメリットです。

大谷:石狩データセンターの強みを、ほかのクラウドでも活かせるわけですね。

田中:そうです。ここでは「安価に提供できる」というのがけっこう重要です。普通こういうベンダーとのパートナーシップって両者が利益をとろうとするので、サービスが高くなって、うまくいかない(笑)。

その点、当社はもともと安い。他社は短期的に利益をとれる計算しますが、当社は原価計算の仕組みも3~5年でどれだけ利益が出るかというものをベースにしています。長期で回収できるモデルを構築しているので、結果的にパートナーも儲るようになっています。

原価計算するとさくらのビジネスは「俺のフレンチ」的?

大谷:昨日のさくらの夕べでは原価計算が大きなテーマだったようですね。田中さんが納得したものになりましたか?

田中:納得する以上のものになりました。昨日は地代や電力まで含めて10万近いVMの原価を算出して、1台ずつ見られるグラフにしたんです。通常、こうしたデータセンターの原価って、サーバーなどの原材料のみで、地代や電力コストなどの間接費が配賦されない。でも、データセンタービジネスってほとんど間接費なので、それを正確に把握しなければならないんです。

たとえば、専用サーバーの場合、電気を使っている人と使っていない人、あるいはトラフィック出す人と出さない人ですごい開きがあります。それを1VM自体出していくと、儲っているサービスかどうかが白日の下にさらされるんです。

大谷:恐ろしいシステムですね(笑)。

田中:恐ろしいシステムです(笑)。こうした算出された原価を儲っているユーザーと儲っていないユーザーでソートして、グラフでプロットしたんです。こうするとトータルでは儲ってはいるのですが、すごいばらつきが出ていることがわかります。会場の人も驚いてました。「儲ってないユーザー解約してもらえば超儲るじゃん」という声も出ましたが、もちろんうちはそういうことはしません。儲る、儲らない含めて、全体の収益性なので。

大谷:全然“ならせない”世界なんですね。

田中:しかもうちの場合、事業部ごとに収益性を管理しないポリシーを貫いています。ただ、管理しないだけで、把握しないのはまずい。データで見ることで、今までの経験則を補うことができています。

たとえば、VPSはいまだに収益性に余裕はないんですけど、止めるかというとそうでもない。VPSがあることで、トラフィックがけっこう増えたからです。本来的にトラフィックが増えると、支払わなければならない回線原価は増えますが、単価は下がります。だから、VPSはトラフィックが増えているけど、メガビット単価は下がっています。それだけだとメリットないんですけど、ほかのレンタルサーバーのネットワーク単価が劇的に下がるので、利益は極大化します。

このようにサービス共通でインフラを持って、固定費のビジネスをやっているので、この固定費がどれだけの利益を生み出しているのか、きちんと把握することで「ビジネスの健康診断」ができます。この結果、データセンターへの投資もより精度高くできます。データセンターの原価ってけっこうどんぶり勘定のところ多いですが、うちの石狩データセンターは稼働率9割ですからね。7割で儲るところ9割で回しているので、非常にいいビジネスです。いわば(原価率が高いのに、回転率も高い)「俺のフレンチ」的な感じですね(笑)。配賦の経験則を疑って、サービスをちょっと変えるだけで、安く提供でき、利益も上げられます。

大谷:なるほど。メディアから見ると、東京は地代が高いから収益率悪いけど、石狩は安いから収益性高いとか一律に見がちですけど、そういう単純な話じゃないんですね。

田中:原価計算は奥が深いですよ。データセンターごとに収益性違いますし、結局自社で投資した方が中長期的には儲りますね。

(次ページ、パートナーシップは互いのメリットが出ないとやらない)


 

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