歴史上、これほどテキストを読み書きする時代はなかった
「もうすぐ絶滅するという紙の書物について」がヨーロッパで刊行されたのは2009年だから(日本語版は2010年)、すでFacebook(2004年)やTwitter(2006年)はもちろん、Flickr(2004年)もYouTube(2005年)も登場している。そうした多様なメディアが混交している状況をすべて理解したうえで、「アルファベットの時代に戻った」と断言しているあたりはさすが世界的な碩学エーコである。
ほとんどの起業家やマーケッターがやれ写真の時代だとかやれ動画の時代だとか騒いでいるときに(かくいう筆者自身も「UPLOAD」という動画系ウェブマガジンの編集長をしていた……)、「誰もが読むことを強いられる時代」などと普通は見抜けないだろう。実際、人々がこれほど膨大な量のテキストを読んでいる時代はかつてなかったのではないか?
現代人がデジタルデバイスを通じていったいどれくらい文章量を読んでいるのか、正確な数字を知る術はないが、いわゆる「本」を読まない人でも、通勤/通学時に相当な量のテキストデータをスマートフォンなどで読んでいるだろう。
本人は写真を観ているつもりでも、動画を観ているつもりでも、やはり、そこに付与されたほかのユーザーのコメントを読んでいる。そして、現代に特有の現象としてあらゆる人々が、SNSへの何気ない投稿、LINEによるささいな連絡も含め、朝から晩まで、年がら年中、テキストを書いている。
電子書籍が企業の喧伝ぶりとは裏腹にあまり盛り上がっているように見えない理由は、まさにエーコが喝破したように、インターネットそのものがすでに豊穣なテキスト文化の上に成り立っているからなのではないだろうか?
(次ページでは、「モンテスキューの蔵書はたった3000冊?」)
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