電子書籍は流行っているのか、流行っていないのか?
9月22日付の「The New York Times」に、アメリカでの電子書籍の売上が今年に入ってから下落しているとの記事が掲載された。2015年に入ってから最初の5ヵ月間でおよそ10%の減少傾向らしい。それに対して独立系の書店数は近年増加傾向にあり、これが紙メディアへの本格的な回帰を意味するのか、電子書籍の目覚ましい成長の途上に起こった単なる一時的な停滞なのか、侃々諤々の議論が交わされているようだ。
一方、ドイツの出版業界向けニュースサイト「buchreport.de」によると、同国では2015年前期の電子書籍売上は前年比12.5%増とのこと。日本でも電子書籍についてのデータはさまざま出回っているが、ソースによっては市場規模がおよそ1000億円で堅調という肯定的なニュアンスだったり、逆に、書籍全体におけるシェアは10%にも満たないとか、売上の大半がコミックで一般書はさっぱりだとか、否定的なニュアンスのものも多い。
今回はこの電子書籍が流行っているんだか流行っていないんだかいまひとつよくわからない理由について考えてみたいと思う。
いきなり結論めいてしまうが、イタリアの記号論理学者であり、小説「薔薇の名前」の作者としても有名なウンベルト・エーコは、フランスの脚本家ジャン=クロード・カリエールとの対談集「もうすぐ絶滅するという紙の書物について」の中で、インターネット時代とテキスト文化についてこんなことを言っている。
“インターネットが登場したことで、私たちはアルファベットの時代に戻ったのです。映像の世紀がやってきたような気がした時期もあったかもしれませんが、いまや私たちはコンピューターによって、「グーテンベルクの銀河系」すなわち書物の宇宙に連れ戻され、誰もが読むことを強いられる時代になりました。”
Image from Amazon.co.jp |
イタリアの記号論理学者ウンベルト・エーコとフランスの脚本家ジャン=クロード・カリエールとの対談集(CCCメディアハウス刊)。ジャン=クロード・カリエールはルイス・ブニュエルの主要作品、フォルカー・シュレンドルフの「ブリキの太鼓」、大島渚の「マックス・モン・アムール」などの脚本家として知られている |
(次ページでは、「エーコの言葉の真意はどこにあるのか」)
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