取り組まざるをえない社会的背景とは?
人口急減、育児、地方創生――総務省「ふるさとテレワーク」の狙い
2015年09月28日 09時00分更新
テレワークへの機運は確実に高まっている
その反面、「テレワークへの機運は確実に高まっている」(同氏)という。要因は3点ある。
まずはICT技術の進展で「通信速度、テレビ会議、モバイル端末、Wi-Fiが進化し、技術的にテレワークがしやすくなってきている」(同氏)。
次が民間企業での採用で「特にリクルートやトヨタのような超有名企業が全面的にテレワークを導入したことが、テレワークを身近に感じさせるようになった」(同氏)。
また、「女性が活躍する会社ベスト100」(日経ウーマン 2015年6月号)において、在宅勤務制度を導入している企業6社がトップ10にランクインしたことも、認知度を高める追い風となっているという。
最後が内閣の重要課題におけるテレワークの意義で「女性の活躍推進、ワークライフバランス、地方創生といった重要課題において、テレワークの有用性が認識されるようになった」(同氏)という。
「テレワーク」が再び脚光を浴びているのは、「社会的ニーズ」と「技術の進歩」がちょうど重なり、実際の活用に現実味が増したからではないだろうか。その点が一昔前のブームと異なるようにも感じる。
今川氏は「このような機運の高まりを我々もぜひつかみとって、政策的にも推進しなければいけない」と語る。
各自治体が「総合戦略」策定中
そうした中、強く推進されているのが「地方創生」である。
人口減少に加え、東京への人口集中によって地方の過疎化が進み、2040年には全国896の市区町村が行政機能を維持できなくなる「消滅可能性都市」に該当すると指摘される昨今。「地方での安定した雇用の創出」「地方への新しい人の流れを作る」「若い世代の結婚・出産・子育ての希望を叶える」などが、喫緊の課題となっているのだ。
政策としては「まち・ひと・しごと創生本部」が主体となり、国の「長期ビジョン」と「総合戦略」が策定された。
同時に、各自治体に「地方版総合戦略」の策定を要請しており、国から「情報支援」「人的支援」「財政支援」を切れ目なく行う枠組みも整備された。
「地方版総合戦略」では、「雇用創出数」「就業者数」といった基本目標と、具体的な施策およびKPIを定めるのだが、KPIは「農業産出額」「観光消費額」「観光客数」「ブロードバンドのカバー率」「中小企業における電子商取引の実施率」「テレワーク導入企業」といった詳細な施策ごとに、「○○円」や「○○%」など具体的な数字を盛り込むことが必須となる。
定量的な戦略を作らなければならず、地方にとっては難題でもあるが、財政支援はこの内容に応じて交付先などが決まるため、地方の今後にとっては重要な位置づけとなる。
重要なのは「地方への新しい人の流れ」
この戦略において、総務省が最も重要視するのが「地方への新しい人の流れを作ること」(同氏)。そこで「東京への人口転入数は10万人。ここから6万人減らし、逆に地方への転入数を4万人増やすことで、2020年までに転入を均衡させる計画」が描かれた。
しかしながら「これがなかなか難しい。直近の数字では東京への転入が11万人に増えていたりする」(同氏)のも事実。そこでICTにかかる期待も大きい。
「地方への新しい人の流れを作る」という至上命題にICTがどう貢献できるか。成功例として紹介されたのが、「サテライトオフィス誘致」で有名な徳島県神山町や、「葉っぱビジネス」で有名な上勝町である。
それぞれの推進役となる大南信也氏(NPO グリーンバレー代表)や横石知二氏(株式会社いろどり代表取締役)も「地方創生にはICTが必須」と述べている。
例えば神山町では、県内全域をカバーする高速ブロードバンド網を土台に、古民家再生、移住者やサテライトオフィスの誘致に成功し、平成23年に「転入>転出」の人口社会増を達成しているが、そこでICTが果たした役割は大きい。
今川氏は「総務省としては、第2、第3の神山町を作らなければいけないという問題意識がある」と語る。とはいっても容易ではなく、現状では移住するのも一苦労。
そこから話は「ふるさとテレワーク」へとつながっていく。
(→次ページ、「ふるさとテレワーク」の狙い)
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