取り組まざるをえない社会的背景とは?
人口急減、育児、地方創生――総務省「ふるさとテレワーク」の狙い
2015年09月28日 09時00分更新
「ふるさとテレワーク」の狙い
移住について、まち・ひと・しごと創生本部による調査では「東京在住の若者を中心に40.6%が地方への移住を検討している・検討したい」と回答するなど、明るい兆しも見えている。
しかし、実際には「仕事がない」「交通が不便」「医療や教育施設が少ない」「子育て環境が不十分」などの現実問題が立ちはだかる。自分は移住してもいいと思っても、家族の理解が得られないケースも多いそうだ。
それらを踏まえて、総務省で「地方のポテンシャルを引き出すテレワークやWi-Fiなどの活用に関する研究会」を開設。地方創生に貢献するICTの活用策を検討する中で「ふるさとテレワーク」の話が立ち上がったという。
週に1~2日だけ都市部でテレワークを行うのではなく、完全地方移住型のテレワークを実践するもので、「人材を地方に誘致するというパラダイムシフト」と位置づけられている。
具体的には、「地方オフィスで本社機能の一部を遂行する」「子育て・介護で地方へ移住する社員が勤務を継続する」「クラウドソーシングで都市部の仕事を地方で受注する」「都市部の企業が人材を地方で新規採用する」という4つの類型において、「地方に暮らしながら、地方の仕事を奪うのではなく、都会と同じいつもの仕事を行う」(同氏)という。
2015年7月7日に委託先候補が決まり、全国15地域で実証実験が始まっているが、約180社の協力会社から、のべ約1000人が実際に移住するという規模の大きなものだ。
その内容も「大学隣接型・自然隣接型・商店街利用型・職住一体型のテレワーク環境を構築し、どの環境がテレワークに最適化を検証するもの」、「規模の異なる3市町村で共通のテレワーク環境を構築するもの」、「移住者にクラウドソーシングで就業機会を提供するもの」、「廃校をサテライトオフィス化して新たなセキュリティインフラを開発するもの」など非常に多岐にわたる。
また、地域課題をテーマにしたハッカソンや、観光・防災・教育・育児といった生活直結サービスを同時に推進するケースもあり、生活面の品質向上も見据えているのがポイントとなる。
今川氏は「総務省ではこれまでにもテレワーク普及促進に向けて、中小企業向けのモデル実証や、子育て・介護のためのテレワーク活用好事例集の作成、企業への専門家派遣やセミナーによる普及啓発などを行ってきたが、それらはどちらかというと都市部でのテレワークを支援するもの。ふるさとテレワークはちょっと違っていて、“移住”に伴う課題を解決しようという視点。これらの取り組みによって、地方創生にも寄与し、第2・第3の神山町をつくろうと、そんな狙いがある」と語る。
テレワーク諸活動を広く国民からも募集
11月にはもう1つ別に面白そうな取り組みが予定されている。官民連携、さらには国民も巻き込んで進める「テレワーク月間」である。
政府によるテレワーク推進事業は、内閣官房を頂点に、総務省だけでなく、厚労省、国交省、経産省も連携する取り組みとなっている。特に労務のあり方を変えるテレワークに向けては、厚労省が果たす役割も大きい。
近頃は、官民連携も活発だ。民間では日本マイクロソフトがこの数年、自社社員と賛同企業を巻き込んでテレワークを実践する「テレワーク週間」に取り組んでいる。同じように省庁内にテレワーク環境を整えた総務省も、2015年夏に「総務省テレワークウィーク」を定め、職員に積極的なテレワーク利用を促した。
「テレワーク月間」はこうした官民連携の動きをさらに発展させたものだ。
総務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省、学識者、民間事業者などで構成される「テレワーク推進フォーラム」が進めるテレワーク普及推進施策の1つで、11月を象徴月間として、国民一人ひとりがテレワークについて考え、国民が参加する社会的な運動になることを目指すという。
そのために「テレワークに関する諸活動を広く国民全体から募集し、専用サイトに掲載する」という点がポイントとなる。
9月1日から活動登録が始まり、11月に各種イベントや全国セミナー・シンポジウムの開催や、テレワーク学会研究発表会、地域や企業の事例紹介といった政府の施策も集中的に実施し、国民運動として盛り上げていく。
現状(9月時点)では「準備中」の情報も多いが、業務上テレワークを行うことが多い筆者としても気になる取り組みである。
以上が「ふるさとテレワーク」とそれに関連する取り組みの狙いだ。「ふるさとテレワーク」の実証結果はこれからだが、地域それぞれの特性に応じた地方創生が進んでいくか。当然、そこには難しさもあるだろうが、願わくば、人口急減、育児・介護難、地方創生に関わる課題を解決するための突破口となってほしい。
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