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最新ユーザー事例探求 第40回

「世界初の試み」も含むブロケード先進事例

川口市がSDDCを実現、次は「地域ファブリック化」に挑む

2015年09月28日 14時00分更新

文● 川島弘之/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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成功体験を発展させ、壮大な「地域ファブリック」へ

 こうした統合仮想基盤の成功体験を元に、更に大きなプロジェクトとして進められているのが「地域ファブリック」構想である。

 川口市には市内全域に光ファイバーが整備されている。拠点は本庁舎と鳩ヶ谷庁舎も加えて22カ所に及び、その全てでネットワークスイッチの更改が予定されていた。大山氏は「ファブリックはフロア間やビル間をまたいでも構成できる。ならば地域をまたぐことも可能では」と考え、ブロケードにもかねてより相談していたという。

 実際に参加者確認型公募を行ったところ、大山氏のアイデアに近い、光ファイバーの22拠点すべてを「Brocade VDX 6740」でファブリック化する構成をネットワンシステムズ(以下、ネットワン)が提案。結果として同案が採用されるのだが、「一部にファブリックを活用するもの」「従来型スイッチでコンフィグだけ一括管理するもの」もある中、「技術点」はもちろん「価格点」も一番優れていたそうだ。

採用したBrocade VDX 6740の概要

 スイッチ更改にあたっては「安全に移行できること」を最も重要視していた。「安全」のためには、旧ネットワークを残したまま新ネットワークを併設し、移行の確実性が確認できてから、どこかのタイミングで機器を切り替える必要があった。併設しなければならないため、普通に移行すると、新旧用に2倍の物理設備が必要となるが、「そこまでの設備は用意できなかった」(同氏)という。ところがファブリックを使うと、ダークファイバー(光ファイバーの未使用部分)を利用し、論理的に新ネットワークを構成。完全に導通確認が取れてから移行し、旧機器の撤去は後からゆっくりと行う「完全並行移行」が可能になる。

光ファイバーの拠点でスイッチ更改を安全に

 「技術的にはそこが一番大きかった」と大山氏。また、付加価値としてファブリックを使いたいという思いもあったという。「従来型のスイッチは設定が煩雑なのに、故障した機器を入れ替えた際にはすべて設定し直さなければならない。極端な話、ブロケード製品は設定した内容を別のスイッチが保持してくれるので、箱から出してつなぐだけでそれまでの設定が自動で行えます。こうしたメンテナンス性を考慮して、ブロケードのVDXを入れたいと思っていました」

 さらにブロケードの「VCSファブリック・テクノロジ」には、ファブリック全体をまるで1台のスイッチのように管理できる「ロジカル・シャーシ」という機能がある。川口市では、同機能で全拠点のスイッチを論理的にまとめ上げるという。

 「これを使うと、光ファイバーの全拠点の全スイッチがまるで一台のように動き、どこの拠点で結線しても、同じスイッチのポートにつないだのと論理的に同じように運用できます。実は現在、庁舎の建て替えを予定していて(来年度から一部着工)、サーバールームごと一時的に別の場所に移す予定です。従来型のスイッチだったら、そこでネットワーク設定をやり直さなければいけないのですが、ロジカル・シャーシを組んでいるとその手間がかなり軽減されるのが分かっていました」

 22拠点それぞれで冗長化構成を組むため、導入されるのは「Brocade VDX 6740」×44台。ロジカル・シャーシは仕様上48台までサポートするが、44台という規模は実際には「世界初」だという。そのため、同事例については、米BrocadeのCTOが川口市を訪れるなど、全面サポートをコミットメントしているという。

 「実際、技術的な懸念もなくはないようです。そのため、ロジカル・シャーシを複数構成して、1グループ辺りの台数を実証済みの台数に抑える2次案、3次案も用意されています。ただ、完全並行移行が可能なので、トラブルが起きても本番環境に影響はありません。私自身は問題なく行けるのではと思っているんですが」

 移行の安全性を追求した結果、世界初の試みとなった同事例。大山氏は、世界初ということでネットワンに「これは無謀か?」と訊いたそうだ。すると「いいえ、理想です」という回答が返ってきたという。

 「さらに重要なことは、技術面だけでなく価格面でも優位だったことです。ファブリックを組むと高いのではと感じるかもしれませんが、実際には構成がシンプルとなり、川口市にとっても費用削減となっています。例えば、今までネットワークが3系統あったので、拠点ごとにスイッチが3台稼働していました。冗長化もされていなかったのですが、今回の構成では2台で済み、かつ冗長化もされて安全性も増しています」

「インターネット」は死語になるかも

 大山氏は「地域ファブリック」構想について、今後の方針なども語ってくれた。

 「LANではなくファブリックを採用し、それを地域全体に広げることから、『地域ファブリック』という造語を使っています。川口市でこの取り組みができたのは、光ファイバーを自前で引いていて、拠点大規模更新という機会があったから。そういう例自体があまりないので、自治体としては珍しい例だと思います」

 「今回の事例はネットワークの移行を安全に行えて、川口市にとっても非常にメリットのあるものですが、こうした取り組みを通じて技術検証をしっかりと行って実用性が認められれば、例えば民間の通信事業者などにとっても参考例になるのではと考えています」

 「今までは『インターネットは危険、でも専用線は高い』といった課題がありましたが、ファブリックという概念が広まれば、それも死語になるかもしれません。『インターネット』が『インターファブリック』と呼ばれる未来がきて、革命的なことになるかもしれない。そういった期待もあります」

 「DR(災害対策)についても環境ごと仮想イメージをバックアップできるので、別の拠点での環境再現が容易です。今後の新庁舎ではデータセンター間での動的なフェイルオーバーを検討していますが、さらに次の段階として外部のパブリックラウドにバックアップし、万が一の際にそこに環境を復元するといったことも考えられます。つまり、DRサイトを簡単に複写して、全国各地に広げることが可能になるわけです。実際に、VMware vCloud Airを利用する計画も考えているところですよ。今回の件をきっかけに、そんな安全なシステムを目指していきたいですね」

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