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最新ユーザー事例探求 第66回

エイベックス担当者が語る、データ活用の歩みと民主化に必要なもの

懐かしのあの曲が「リバイバルヒット」する時代 エイベックスはAI・データで“バズりの兆し”を先読み

2025年10月23日 11時00分更新

文● 福澤陽介/TECH.ASCII.jp

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 「データで流行そのものを生み出すことはできないが、現場が流行を生み出す後押しはできる」――。そう語るのは、レコード会社のエイベックスでデータ活用をけん引してきた高畑信吾氏だ。

 データ・AI活用が遅れている音楽業界の中で、いち早くデータ活用に変革の活路を見出したエイベックス。その一例が、過去にリリースした楽曲(旧譜)が突発的に再生増加する兆しを「予測AI」で捉え、プロモーションにつなげる仕組みづくりだ。

 高畑氏に、エイベックスにおけるデータ活用の歩みや、旧譜のリバイバルヒットを生み出すための取り組みについて聞いた。

エイベックス・エンタテインメント 事業開発本部 ITシステムグループ ゼネラルプロデューサー 高畑信吾氏

エイベックスのデータ活用の原点は“ダッシュボード”

 エイベックスのデータ分析の歩みは、2017年に、CEO直轄のグループ戦略室が立ち上がったことから始まる。グループ全体の変革を推進する同組織には、人事や働き方、R&Dなどの中核機能を担う専門人材が集結し、“データ分析”もそのひとつと位置付けられた。この初期メンバーのひとりが高畑氏になる。

 高畑氏は、印刷業界を経てエイベックスに入社。以降、いわゆる情シス(情報システム部門)の業務に従事し、Google Workspace(当時はG Suite)やSlackの導入・定着化に携わった。その中で、Google Analyticsの活用を始めていたことが、データ分析のメンバーとして選ばれた理由だという。

 当時はちょうどデータサイエンスが流行り始めた頃で、経営陣はデータ分析に期待を寄せていた。だが、足元をみると、社内のデータは整備されておらず、データ基盤の構築には時間もコストもかかる。それでもすぐに結果を出す必要があった高畑氏らが手をつけたのが、「ダッシュボード」を使ったデータの可視化であった。

 データ活用に取り組んだ背景には、音楽業界を取り巻く大きな環境の変化がある。当時、Apple MusicやSpotifyなどのストリーミングサービスが上陸して“音楽の聴かれ方”を変え、他方では、YouTubeやX(当時はTwitter)、Instagram、TikTokといったSNSが“音楽との出会い方”を変えていた。それまで「CDが何枚売れたか」を分析していた現場も、分析の対象を「ストリーミング再生数」や「SNSのフォロワー数」といったデータにまで広げる必要があった。

 ただし、「現場も数字の変化を毎日追いたいが、いかんせん人手が足りない。分析をしたいのに、データを集める段階で力尽きてしまっていた」と、高畑氏は当時の状況を振り返る。

 そこで、データソースに接続しておけば自動的にデータが取得でき、業務負荷も軽減できるダッシュボードの構築を決めた。そのソリューションとして選んだのが、クラウド型のデータ活用プラットフォーム「Domo」である。「ブラウザだけで利用でき、コネクタも充実していた。オールインワンで必要なものが揃っていたDomoが、当時の我々にはまった」と高畑氏。

 運用開始当初は、それまでExcel文化が根付いていたことから、ブラウザやグラフでデータを見ることに抵抗を覚えるメンバーも多かったという。ただ、毎日データが自動的に更新され、ひとつの画面で必要なデータがすべて把握できるインパクトは大きかった。社内のユーザー数は一気に増え、定着化の悩みからも早々に解放されたという。

 「データ活用の第一歩として、数字を可視化して、どこでも見られるという文化が根付いたのが大きかった」(高畑氏)

Domoのダッシュボードの活用イメージ

予測AIでリバイバルヒットの“兆し”をつかむ

 次のステップは、データ活用だ。ここでは、新譜と旧譜のプロモーションにおける取り組みが紹介された。

 新譜のプロモーションでは、データを分析することで、市場の反応に合わせた素早い打ち手を講じている。例えば、SNS分析から意図しない盛り上がりをキャッチして、アーティストにその盛り上がりを広げるような投稿してもらう。また、新曲への流入経路を深掘りして、ファンの属性を把握し、それをプロモーションにも反映するような動きもしているという。

 もうひとつは、旧譜のプロモーション、いわゆる“リバイバルヒット”を狙ったデータ活用だ。

 その背景にも、やはり音楽業界の変化がある。ストリーミングサービスやSNSの登場により、世界中の誰もが膨大な量の音楽にアクセスできるようになり、TikTokなどのショート動画に代表されるよう、ヒットの生まれ方も多様化した。その結果、旧譜が広く聴かれるようになり、業界側も積極的にプロモーションを仕掛けるようになった。

 エイベックスでも、話題になっている旧譜を担当者がリサーチし、その要因を調べるとともに、プレイリストとしてリスナーに提供する取り組みを始めていた。しかし、話題の旧譜を一つひとつ人手で拾い上げるのには限界がある。海外での急な盛り上がりに気づけず、機会損失につながることも多かった。「それならば、機械学習の力で盛り上がりの兆しを捉えて、盛り上がりを最大化できないかと考えた」(高畑氏)

 高畑氏らは、過去2年間の旧譜の再生実績を学習させた機械学習モデルをPythonで作成し、DomoのAI機能である「Domo.AI」と連携させた。そして、旧譜の再生数の予測と実際の再生数の乖離を「バズりの兆し」として検知。この乖離が一定のしきい値を超え、バズりの兆しが現れると、担当チームにアラートが飛ぶ仕組みを生み出した。

 この仕組みによって、アラートの出た旧譜をプレイリストとして迅速に公開するような業務の流れが確立され、旧譜のプレイリストにもかかわらずランキングへチャートインするという実績も生まれている。「効率が上がるのはもちろん、人の監視では拾えない兆しを見つけられ、現場からはとても評価が高い」(高畑氏)

Domoのダッシュボードで、予測値(黒線)、実績値(青線)、しきい値の範囲(水色)をそれぞれ可視化

 その他にも、タイトルや歌詞、人の記憶に頼っていた“季節”や“記念日”に関連したプレイリストの選出も、曲の聴かれ方の変化をモデル化することで効率化している。

 「データ分析で大ヒットを生むのは難しいが、大量に保有する旧譜の再生数を増やし、ロングテールでビジネスを広げていく。こうした側面では、一定の成果を得られた」(高畑氏)

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