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さくらインターネットが2年目の挑戦。石狩でフェス会場を歩き回り、裏話も聞いてきた

真夏のフェスRSR、Wi-Fi提供に奮闘するさくらもアツかった!

2015年09月04日 09時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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「できることは自分たちでやろう」=さくらの“自前主義”

 ちなみに、今年は「できることはなるべく自分たちでやろう」というポリシーを立てた。東さんや鈴木さんは、FWA(固定無線アクセス)のアンテナ工事に必要な高所作業車免許や無線免許まで取得したという。そもそもRSR自体が“人任せにしない、自分でできることは自分でやる”というメッセージを掲げるフェスであり、さくらとしても、せっかくならふだんはできない経験を楽しもうという気持ちがあるようだ。

 「自ら工事を手がけることでコストが抑えられますし、何より『自分たちでやった』という達成感があります。また、これまでサービス提供に自作サーバーやオープンソースソフトを積極的に使ってきた、さくらの“自前主義”という企業文化も影響しているかもしれません」(宮下さん)

 一方で東さんは、「フリーWi-Fiの提供」という1つのサービス全体を自分たちで手がける経験が、特に若い技術スタッフにとっては良い刺激になるのではないかと語った。

 「今回プロジェクトに参加した鈴木はまだ入社2年目ですが、ネットワーク設計や監視システムの構築を行いました。自分たちでサービスを企画し、作り上げていくという、一連の流れを体験できるいい機会になっていると思います」(東さん)

現地にて設営作業中の鈴木一哉さん。入社2年目、ふだんは東さんと同じ運用部ネットワーク運用チームのメンバーだ(写真提供:さくらインターネット)

これぞ野外フェスの醍醐味?データセンター屋上、暴風雨の中で

 昨年さくらが提供したWi-Fiスポットは、RSR会場内でも石狩データセンターに最も近いエリア(BOHEMIAN GARDEN)の1カ所だけだった。会場との間に公道を挟むため、FWAのアンテナをデータセンターの屋上に設置し、会場内に建てたアンテナと1:1で無線ブリッジ接続することで、Wi-Fiスポットからインターネットへのアクセスを可能にした(詳細は昨年のレポート記事を参照)。

 だが、今年は提供するWi-Fiスポットが会場内全域の7カ所に拡大している。単にスポット数が増えただけではなく、最も遠いスポットまではデータセンターから直線距離で2キロメートル弱もある。そのうえ、RSRの会場内には10メートルを超える高さの樹木が幾つもあり、FWAの電波を遮るおそれがあった。

RSR会場は平坦だが高い樹木が随所にある。FWAの電波は直進性が強いため、木に遮られると通信できない

 そこで、さくらチームでは2つの対策をとった。まず、1:N通信に対応し広いエリアをカバーできる新しいFWA装置(RAD Airmux5000)を採用して、データセンターと複数のWi-Fiスポットとをつなぐ。さらに、FWAの電波が届かないケースを想定し、バックアップ回線としてフレッツ経由でのVPNも利用することにした。

RSR 2015におけるさくらWi-Fiのネットワーク構成(概略図)

データセンター屋上アンテナと会場側アンテナ。「会場側アンテナの高さは6メートルまでの制限があるため、データセンター側のアンテナポールを継ぎ足して高さを稼ぎました」(宮下さん)

 7月中旬に現地で行った実証実験の結果をふまえ、FWAで接続するWi-Fiスポットは4カ所、それ以外の3カ所はフレッツ経由で接続することに決まった。ちなみに今年はアンテナ工事を自分たちで実施することにしていたため、大変な目に遭ったようだ。

 「7月の実証実験当日は暴風雨だったのですが、わたしがデータセンターの屋上に、東が会場内の高所作業車に上り、FWAで各スポットと通信できるかどうかをテストしました。高い場所で風に揺られ、正直怖かったです(笑)」(宮下さん)

事前のFWAテスト当日は暴風雨。データセンター側では地上高20メートルの屋根を渡ってアンテナを仮設。一方、会場側では、高所作業車を6メートルの高さまで上げて電波を受ける。どちらの作業も見るからに怖そうだ(写真提供:さくらインターネット)

 こうしてRSR本番に臨んださくらチームだったが、短期イベント用のネットワークにはトラブルがつきものだ。開催直前になり、いざFWAのアンテナを建ててみると、うまく通信できないスポットが出てきてしまった。「暴風雨で十分なテストができなかったので……やはり高い木の影響でしょう」と宮下さんは残念がる。

 もっとも、ここではバックアップ回線を準備していたことが幸いした。最終的にはFWAで提供するスポットを1カ所に縮小、残り6カ所はフレッツで接続するようネットワーク構成を変更して、RSR当日に臨んだ。

今年は認証ポータルを追加、コストを抑える秘訣は?

 今年、もう1つ新たに取り入れたのが「キャプティブポータル(認証ポータル)」機能である。Wi-Fiアクセスポイントに接続すると、初回はまずポータル画面が表示され、利用規約に「同意する」をタップすればインターネット接続が可能になる。空港などによくあるフリーWi-Fiサービスと同じ機能だ。

 「コンプライアンス的な(不正利用を禁止する)意味合いもありますが、これから公衆Wi-Fiサービスが普及していくと、案内看板などに頼らず(ポータルの情報を見て)接続するのが当たり前になるんじゃないでしょうか」(宮下さん)

キャプティブポータルの画面。「プロジェクトチームにデザイナーが加わったことで、ポータル画面や看板のデザインクオリティが格段に上がりました」(宮下さん)

 このポータルは、オープンソースのソフトウェアルーター「pfSense」が備える機能で実現した。ほかにも、今回はpfSenseのNATルーター、DHCPサーバーの機能も利用しており、冗長化構成のサーバーで稼働させた。ソフトはオープンソースで無償、サーバーはもともとデータセンターにあったものを流用したため、コストの抑制にもつながったそうだ。

 「Wi-Fiスポットが7カ所に拡大したため、トータルコストは昨年の3~4倍に増えましたが、機材費だけを見ると1.5倍程度に抑えられています。なるべくあるものを使う、なるべく自分たちで作業する、この2つの合わせ技が効いたと思います」(宮下さん)

データセンターのラックには、ポータル機能を提供するpfSense用のサーバー(2台)やこのネットワーク用のルーター、フレッツ用のONUなどが設置されていた

 技術担当の東さんも、今回のネットワークの設計や運用を考えるうえでは、なるべく既存の機材や業務フローに合わせることを心がけたと語る。そうすることで、無駄な業務やコストの発生を抑えることができるからだ。

 たとえば、RSRのWi-Fiネットワーク監視については、石狩データセンター内のネットワーク監視チームが兼務した。これにより、ふだんの業務と並行するかたちでイベント用ネットワークも監視できる。RSR期間中、終夜提供されるWi-Fiサービスを24時間有人監視できるわけだ。また、Wi-Fi提供用のデータセンター内ネットワークも、ほかの商用サービスと同じように二重化されており、サービス品質の向上につながっている。

(→次ページ、「イベントそのものの価値を高めるような提案もしていきたい」

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