黒澤明「羅生門」に観る編集の本質
焦らずひとつひとつ説明していこう。まずは1の「情報は送信の際にも受信の際にもすべて編集されている」ということ。
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名匠・黒澤明の「羅生門」という映画がある。日本映画として初めてヴェネツィア国際映画祭でグランプリを受賞した作品だ。もともとは芥川龍之介の「藪の中」が原作である。ある奥深い山の中で一人の武士が殺害されるという事件にまつまわる物語で、主要な通常人物は盗賊(三船敏郎)、武士(森雅之)、その妻(京マチ子)、目撃者(志村喬)の4人。
逃走していた盗賊が捕らえられ、行方知れずになっていた武士の妻が保護され、武士の遺体も見つかり、物陰から一部始終を見ていた目撃者も現れたということで、検非違使がそれぞれにことの真相を問いただすものの(殺害された武士は霊媒を通じて証言する)、話の内容がすべて食い違っており、どれが真実なのかまったくわからない。つまり、真実は「藪の中」というわけである。
ここで誰がいったい嘘をついているのかを推理するのも、この映画を観る醍醐味のひとつかもしれない。
だがこの作品は、「情報とは組み合わせ次第でまったく異なる意味を生成し得る」という編集の物語ととらえることはできないだろうか? 事実、英語版の予告編には「Four Versions of the Truth」という文言が挿入される。そう、情報とは常にひとつの編集バージョンなのだ。
1950年に公開され、ヴェネツェア国際映画祭金獅子賞を受賞した名作「羅生門」の英語版予告編。「One Crime」「Four Versions of the Truth」というコピーが物語の核心を見事に言い当てている。人間のエゴを描いた作品を言われることが多いが、筆者は人間の「編集力」の恐ろしさを描いた映画だと思っている |
(次ページでは、「受け取った情報に対して自覚的になるべき」)
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