ハイレゾではなくレコードにひかれる
佐武 ご自宅でもレコードを聞いていると思うのですが、最新のハイレゾ音源なども聴いて参考にはされているんですか?
西谷 個人としてダウンロードで購入することはないです。仕事でハイレゾのマスターが届いてそれをレコード化するために聴くことはあるんですが……。
佐武 それぐらいレコードを愛しているということですね。普段から音に接している方々になると、無音の空間が好きという人も多いようですが。
西谷 もちろんそういう日はあります。確かに10時間を超えるぐらいスタジオの中で仕事をしていると耳が疲れてくるので。でも通常の8時間の労働時間を終えて家に帰り、音楽を聴きたいなと思う際にはレコードを聴いていますね。
佐武 おしゃれですね! ワイン片手に(笑)
西谷 いやいや(笑)
佐武 それでは、ぜひレコードができる過程を見せていただけないでしょうか!
西谷 わかりました!
カッティングし、原盤の音を聴く
西谷 カッティングマシンは現在作られていなくて、ここにあるのは1970年代に作られたものです。この次の世代が1980年代に作られましたが、それ以降新しい製品は出ていません。だからこれを使い続けていく以外ありません。
ここにある機材は、日本だけでなく米国・欧州を含めて、世界で一番使われているタイプです。修理などはスタジオごとに個別に対応していく形なので、部品も最初の形からは異なっていますし、出てくる音も微妙に異なってくると思いますよ。
カッティングマシンは、もともとレコード工場に付随して設置されることが多かったようです。かつてはソースもアナログのオープンリールが多かったと思うのですが、CD以降はデジタルメディアが主流になっていますね。
(ソースを流しながらカッティング作業に入る)
佐武 まず曲自体が良すぎます~。もう始まってるんですか、もしかして。
西谷 ええ。(ポンプを調節しながら)レコードのカッター針が先についていて、ここが音の信号に合わせて動くのですが、長時間高出力を送ると、中のコイルが熱を持ってくるんです。それを冷やすために、ヘリウムガスを使います。
佐武 超繊細に動いていますね。
西谷 再生用のレコード針はダイヤモンドが普通なんですが、カッティングするときはルビーとかサファイアとかになりますね。
佐武 えっ!? 宝石のですか?
西谷 そうですよ。ダイヤモンドの音が一番いいと言われているんですね。
佐武 なにそれ、おしゃれですね~!!! 針がですか? 知らなかった。レコードは糸を縫う、ただの針で再生するのかと思っていました。
西谷 (笑)
佐武 すごい! 線がどんどん描かれていきますね。
顕微鏡で彫った溝を確認してみよう
西谷 カットし終わったら、ここにある顕微鏡で線をチェックしていくことになります。のぞいてみてください。
いま見ていただいているのが、音の入っていない溝ですね。3本の線があることに気づくと思います。レコードの溝は左45度、右45度で合計90度の角度が付けてあって、中央が底になるのでこう見えるんですね。
音の成分はこの左右の壁に刻んでいきます。音楽は高い音から低い音までいろいろありますから、出来上がる溝が違ってきます。高域が多ければのこぎりのように細かい溝が、低域が多いと横に大きく振幅した溝が掘られます。
横に揺れている溝が分かりますか?
佐武 分かります!
西谷 レコードを動かすとその動きがより具体的に分かると思います。
佐武 これが音の情報を表しているんですね。
西谷 いまこの溝で一本の幅が70μmぐらいです。髪の毛よりだいぶ細いです。
佐武 すご~い!! 細かい作業ですね~!!!!! 本当に顕微鏡で見ないと分からないぐらいですね。
西谷 この作業も収録時間が短ければ検査も楽なんですが、長くなると……。
佐武 全部見ないといけないんですか、はぁ~。目で見て分かるものなんですか?
西谷 分かりますね。低音が強すぎたり、音量を大きくしすぎたりして左右の振幅が大きくなりすぎると、横のみぞが接触したりするんですよ。そうすると針が跳んでしまったりするので、チェックします。
佐武 線路と一緒ですね。電車の。
西谷 そうそう。ちゃんと接続されてるかを見ないといけません。音だけでなく目視でも。LPなど片面で20分以上あるものになると本当に溝がびっしりと彫られていきますので、それを切り終わったあとチェックするという作業を1日5枚以上やると、顔を上げたときに立ちくらみするぐらいです。
佐武 こんな作業を経てレコードが届くなんて、普通の人じゃ分からないですよ! CDを焼くみたいな簡単な作業なのかと思っていました。
西谷 CDだと倍速でコピーや再生ができますが、アナログはすべて等倍なんですね。早送りができません。だから時間がかかるんですね。
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