アナログからデジタルへの過渡期、レコードに目覚める
佐武 西谷さんはすごくお若く見えますが、何年ぐらい前の話なんですか?
西谷 もうかれこれ10年近く前になりますかね。私はいま37歳なんですが、そのときにレコードを作りにきて。
佐武 十分若いじゃないですか(笑)。レコードが聴ける家庭で育ったんですか?
西谷 音楽はもちろんですが、レコード自体に興味があったんです。正直自分ぐらいの年齢で音楽を聴こうと思ったら、小学校・中学校に通うような年でもCDを聴く人のが普通じゃないかと思います。ちょうどCDが再生できるラジカセだったり、コンポだったりがブームで出てきたころです。
うちでもCDを聴くことはできたんですが、たまたまアナログレコードが再生できるコンポを親戚にもらったことがレコードを再生するきっかけになりました。そこからこの年齢になるまでレコードを聴き続けてきたわけです。逆に言うと、CDは100枚も買ってないんじゃないかなと。
佐武 本当ですか!? やっぱり違うものですか。CDとレコードの音は。
西谷 そうですねぇ……。聴きはじめたころは、正直、音の違いを意識していませんでした。ただ時代もあって、当時はCDで出ているアルバムよりも圧倒的にレコードで出ている過去の音源のほうが多かったんです。だから自然に新しいCDを買うよりも、レコードを探すほうに興味をひかれていきました。
佐武 そうだったんですね!!
収録時間によって、レコードの音質は変わる
佐武 逆に私はレコードを聴いた経験があんまりないので、どういうものか知りたいと思っているのです。なんか「おしゃれ」なもの、というイメージが強いですね。針を落く音まで楽しむとか、微かにノイズが聞こえていたりとか。そういった部分が“味”というか“CDとの違いになるのかな”なんて思います。
西谷 CDでは再生される音にあまり変化が出ないと思います。でもアナログレコードは聴く環境で全然変わってきますね。針の違いやオーディオのアクセサリーなど、どこかを変えると必ず音が変化していきます。
佐武 ということは、レコード盤自体でも変わるんですか?
西谷 ありますね。レコードはシングルとアルバムで収録時間が変わってきます。シングルだと大体片面で1曲10分程度まで。これがアルバム(LP)になると片面で5曲程度収録できるようになります。盤面を見ると、1、2、3……と曲が分かれているのが分かると思います。
佐武 この黒くなっているところが切れ目? へぇ~、そうなんですね。すごい!!
西谷 そうです。レコードでは一度置いた針が進む、溝は1本だけです。この溝を針がトレースしていくんです。
佐武 スキップや頭だしする際にも、目で見て、手動で針を置く場所を決めないといけないという点にも時代を感じますよね。
西谷 CDならボタンひとつで次の曲にいきますが、レコードは針を置いた場所の音が出るわけです。
西谷 レコードの直径のうち、カットできるスペースは9cm程度です。限られているので、この中に10分の収録時間を刻むのと、20分刻むのでは、溝の1本の太さが倍ぐらい変わってきます。この溝の太さと音量の大きさはある程度比例してくるので、音量を大きくすれば溝は深くなります。でも溝が深くなれば面積をとりますので、収録時間が短くなっていきます。
佐武 そういう考え方なんですね! ということはすごく長い曲を収録するのは難しいんですね。
西谷 そうですね。クラシックコンサートの録音などでは1曲が20分以上あったりしますから、片面1曲で収録しないといけないことも。
佐武 CDのように何曲も入れられるわけではなくて、その曲に合わせた量と音を選ばなくてはいけないんですね。
西谷 そのバランスを取るのが私たちの仕事です。音量や音質や溝の深さを調整してカットしたものが原盤になりますが、言ってしまえば、ここで調整した音が最終的なレコードとしてプレスされて残っていきます。だから最後の音決めというか、スタジオのエンジニアの腕の見せどころとなりますね。
佐武 つまり1曲1曲で、この針を置く溝を見極めていかないといけないということなんですね。知らなかったことがたくさんあります!
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