佐武宇綺が聞いちゃいます オーディオのココが知りたいです! 第9回
エンジニア藤田厚生さんが気付いた“いい音”が生まれる瞬間
ハイレゾ時代でも、狙う音は驚くほどアナログ時代と同じ (2/6)
2014年12月25日 17時00分更新
音源制作はコミュニケーションである
佐武 基礎を知り、お互いに信頼してもらえるようにする! 確かに!! コミュニケーションですね。歌っている側からすると、マイクとどのぐらいの距離ならいい音になるかはわからないので、そこの部分を教えてもらえたら助かりますね。
藤田 現場で仕事をしているとね、言いづらいことが必ず出てくるんですよ。歌の収録だったらマイクにもうちょっと近づいてほしいとか、声を張るときにはマイクを離してほしいとかね。
こういうテクニック的な部分は初対面の人にはなかなか伝わらない。それを伝わりやすくするために一緒にお茶を飲んだりとか、お菓子を食べたりする時間も必要なんですね。
一度録音したものを聞きながら「こうしたほうがもっと良くなるよ」などと話します。的確にポイントを押さえるだけじゃ足りなくて、言ったことがきちんと相手に伝わり、信じてもらえるところまでいかないといけない。そういう時間を経るから、自然と言いにくいことも言いやすくなってくるんです。
つまり「僕に任せてください」と言えるような関係にならないと、エンジニアとしてはダメなんだろうなと思うんです。
佐武 なるほど! エンジニアの仕事は、音楽そのものをプロデュースしていくというか、目の前にある音を録るだけじゃなくて、アーティストと一緒に曲を作っていくことなんですね。
藤田 そう。だから目的が必要になるんです。目的がないと、どうやったらいいのかが分からなくなるし、何を使ってどんな音に仕上げていくかも考えられないわけですから。
いい音とは目標が達成された音
佐武 私たちはこの連載でいま、「いい音とは何か」を研究しているんです。その言葉は曖昧だけど奥深いなと。だからいろいろなプロの人たちに取材して回っているんです。ずばり聞きます。いい音って、どんなものだと思いますか?
藤田 すっごく難しい質問ですね。うまく言葉にできないし、われわれがひとことで言い切ると、言った瞬間にうそになるような怖さもあります。
……そうですね、自然な音ではないような気がするし……。気持ちよくなるもの。不快でないものはすべて受け入れてもらえるんじゃないかなって思いますね。
でも音楽だったら、こういう音にしたいという目的が必ずあるから、そういう音が出た瞬間がいい音が聞こえるときなんじゃないですかね。作り手も、聞き手もすごく楽しくなって気持ちよくなれたとき。つまり目標が達成されたとき。それがいい音が鳴ったときだと言えるかも知れないですね。
例を挙げると、ビートルズ世代の音楽でいうと、ディストーションというか、歪んだギターの音がありますよね。エレキギターでアンプの出力をわざと大きく上げて作る音です。オーディオ的に見たら歪んだ音で、とんでもない。でもそれを使って音楽を作るわけだし、誰も不快な音として聞いていない。歪んだ音も心地よさを作れる。作り手側が意図した音が出ているのであれば、やっぱりいい音なんじゃないかなって思いますね。
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