電通大宮脇准教授に聞く、視覚に関する脳研究の最新事情
わたしたちの脳は、目にしたものをどのように認識しているのか
2014年06月19日 11時00分更新
V1からV8まで、視覚野は階層的に分かれている
遠藤 つまり、視覚情報も初期段階からフィルターをいくつも経て、最終的には記号化されると。
宮脇 そうですね。記号化されて選択性がどんどん増してくるのかも。
遠藤 ジェニファー・アニストンとかいった個人に反応するようになる。ちょっと話が戻った方がいいんですが、要はマクロ的に読み出したものが、どんどんこういうふうに処理されていくんですね。
宮脇 いろんな説がありまして、ここで言っているのは、そういう1個の細胞、おそらくは少数個の細胞が特定のコンセプトと結びついているということなんですけれど、そうじゃないよっていう人もいるんですよ。例えば複数対複数になっていて、これを表現するのはこれぐらいの数の細胞、あれを表現するのはある数の細胞で、部分をシェアしているんだという仮説もあります。
遠藤 1ビットで表現しているかも知れないけども、前後に広がりがないと入出力できないわけですからね。
宮脇 まさにそういう階層構造になっていて、簡単なものから複雑なものまで、その途中では情報の収斂というものが起こりますから。どのレベルでどういう感じになっているかというのはまだ完全にはわかっていません。ですが、いわゆる「第一次視覚野」という最初の部分に関しては、かなりわかってきています。
遠藤 どんなところまで来ているんですか?
宮脇 第一次視覚野の機能はかなりわかっていると言っていいと思いますね。視覚情報は、まず眼球の網膜があって、次に外側膝状体(がいそくしつじょうたい)というところを経由するんです。ここは眼球から脳への中継核です。
遠藤 電気信号が来るぞと。
宮脇 そうです。第一次視覚野は、視覚野の中で電気信号が来る一番最初のところですね。ここではまず、方位選択性といいまして、ものの傾きに反応するんです。ある神経細胞はある場所のある角度の線に一番良く反応するし、別の細胞は別の場所のちょっと傾いたところに反応するしというかたちで、ぐるっと全部の角度に対して反応するようになっています。
遠藤 エッジを見ていると。
宮脇 そうです。人の顔も、エッジの集合で記述するんです。ここの部分はこのくらいの角度という感じで。
遠藤 つまり、まずは輪郭線だけを認識するということですか?
宮脇 輪郭線の部分抽出と言ってもいいかも知れないですね。各々の神経細胞が担当できる場所は、ごく狭いんです。この細胞はこの辺だけ、その隣の細胞は次のこの辺だけしか見ていない。それぞれの部分で、傾きがどうかっという話ですね。
遠藤 昆虫の複眼って、1個の目に7つぐらいの神経が入っていて、1個1個の目でそういう傾きや変化がわかるらしいのですが、人間の目の場合は、ビットマップディスプレイ的に後で処理する感じですね。
宮脇 網膜レベルでもある程度処理はできていて、網膜でやっているのは、コントラストの強調です。白い部分と黒い部分の輝度の差が強ければ強いほど、網膜の細胞というのは強く反応します。
遠藤 まずは網膜で処理されて、信号化されると。
宮脇 その後で、第一次視覚野で見ています。
遠藤 ここで、見たものの形になるわけですか?
宮脇 いや、まだ形にはなっていません。局所的な傾きだけ、ものの形のもとになっている情報だけです。実際にはもう少しあるんですけれども、それを言い始めるときりがないので、なにか主要な機能を1つ挙げるとすれば、こういうことになります。
遠藤 第一次の処理が終わって次の段階に行くと、どう処理されるのでしょうか?
宮脇 第二次視覚野、V2と呼んでいますが、ここにはいろいろな機能があります。1つは線の曲がりの検出。第一次視覚野の2つの場所の情報を組み合わせたような、線分の曲がり具合が表現されている可能性があります。
遠藤 ベジェ化した曲線を表すような感じですか。
宮脇 ただ、このV2については、まだそんなに研究が進んでいないんです。なぜかというと、fMRIで人間の脳を研究できるようになったのは、1990年代なんです。それまでは基本的に動物実験でした。V2というのは、ちょっと場所が悪いんですね。V1(第一次視覚野)は猿の場合だと表面に突出していて、頭蓋骨を外せばすぐにアクセスできるんですけれど、V2はその奥にあります。電極を刺しにくかったというのもあるみたいです。
遠藤 V2でバラバラな情報が曲線になって、そこからはどうなるんですか?
宮脇 もちろん、その次にはV3やV4というのがあるんですが、V3、V4で行われているのは、例えば奥行きの処理。右目と左目の情報を組み合わせて、奥行きがわかってきます。あとは色ですね。そのあたりがV3やV4で処理されているというのが、典型的な知見です。
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