3月11~13日、東京電機大学千住キャンパスにおいて「第76回 情報処理学会 全国大会」が開催された。同学会の歴史特別委員会によるシンポジウムでは、元NTT常務取締役の戸田 巌氏による特別講演が行われた。電話からインターネットまで、50年間に及ぶ技術の変遷を見てきた戸田氏の考える「破壊的イノベーションの起こし方」とは、一体どのようなものだろうか。
コンピュータとネットワーク、50年の変遷を見てきた技術者
1934年生まれの戸田氏は、1958年の電電公社入社後、パラメトロン計算機(関連記事)の研究や料金計算用計算機「CM100」の設計、電電公社用オンライン計算機シリーズ「DIPS」の開発などに携わり、その後はNTT常務取締役 研究開発技術本部長として、NTTのR&D全般のマネジメントを担当した人物だ。
1992年の富士通への移籍後もルータ開発等を担当するなど、技術畑を歩んできた戸田氏だが、2004年に富士通を退職。現在はベンチャー支援コンサルティング会社のStudio ITを設立し、次世代の育成に取り組んでいる。
戸田氏はまず、これまで自身が見てきた半世紀に及ぶICTの大きな流れを簡単に振り返った。
「コンピュータの発展には、大きく2つの流れがあった。1つは、大型コンピュータをたくさんの人で使おうという『共同利用』。古くはTSS(タイムシェアリングシステム)、最近では仮想化といった技術で実現されている。もう1つは『パーソナル化』。80年代にパソコンが、現在ではスマートフォンが登場して、今では昔の大型コンピュータに匹敵する計算力を一人一台持つ時代になっている」(戸田氏)
こうしたコンピュータの発展に対応するかたちで、コンピュータネットワークも進化してきた。
「もっとも、歴史的に見れば電話網がずっと使われてきたというのが実情。電話網を使ってコンピュータが通信するために、TTY、SNA、TCP/IPといったプロトコルが作られた。最終的にこれがTCP/IPに集約され、電話網を使わないIP網が登場する。現在では、2025年までには電話網の利用をやめ、すべての通信をIP網で行おうという流れになっている」(戸田氏)
最大の衝撃はやはりインターネットだった
戸田氏は、50年の歴史のなかでは数々のすばらしい技術に出会ったものの、「社会に最も大きな衝撃を与えたのはインターネットだ」と語ったのち、2つのグラフを見せた。
まず1枚目は、NTTの通信料金収入における電話とデータの比率の推移を示すグラフだ。データ通信収入の割合が毎年確実に伸びて、2012年には50%近くに達しており、このまま電話収入を逆転するのは確実である。さらに2枚目に示された、NTTにおけるインターネットと電話を使ったビジネス規模のグラフを見ると、両者の差は決定的だ。ほぼ通話(通話)収入で構成される電話に対し、インターネットでは通信収入以上の規模でビジネスが行われている。
「すでに日本の人口の80%がインターネットを利用している。携帯電話の利用率が80%になるまでに約30年かかったが、インターネットは約20年で到達した。携帯電話の普及も速いが、インターネットはそれよりもっと速いスピードで普及しているわけだ」(戸田氏)
(→次ページ、インターネットはそれまでの“常識”を全否定した)