日本時間の3月26日朝、Facebookが米ベンチャーのOculus VRを買収するというニュースがネットを駆け抜けた。買収総額なんと約20億ドル。日本円にして約2000億円という巨額が投じられたわけだ。Oculus VRは、VRヘッドマウントディスプレー「Oculus Rift」(オキュラス・リフト)を開発している企業である。この製品に秘められた価値をひも解いていこう。
「世界に入れる」ヘッドマウントディスプレー
まず、注目なのは、“世界の中に入れる”という体験だ。ヘッドマウントディスプレー(HMD)は、ざっくり言えば目につけて使う映像表示装置で、例えばドラゴンボールの「スカウター」を始めとするアニメやSFではおなじみのアイテムになる。
と言っても、HMD自体は昔からあり、民生用としてもオリンパスの「Eye-Trek」シリーズやソニーの「HMZ」シリーズなど、目の前に大きなスクリーンが現れるタイプの製品が発売されてきた。任天堂が出してた「バーチャルボーイ」も同じジャンルに入る。
さらに、ここ数年ではグーグルの「Google Glass」やエプソンの「MOVERIO」シリーズなど、ウェアラブル(身につけられる)コンピューターの流れに乗った「スマートグラス」が登場してきた。こちらは、現実空間に何らかの情報を重ねる見え方(AR、拡張現実)だ。
そうした既製品と比べて、Oculus Riftが決定的に違うのは没入感の高さと言える。対角110度という人間の視界をほとんど覆ってしまう視野角を有しており、かぶると端から端まで映像で埋め尽くされるのが圧巻だ。ジャイロ・加速度・磁気センサーを内蔵し、頭の向きを検出してくれる(ヘッドトラッキング)点も特徴だ。例えば、首を左右にふればあたりを見渡せるし、上を見上げれば空が表示される。コントローラーを手で操作することなく、普段と同じ感覚で映像の世界を堪能できるのだ。
視界を全部覆う+ヘッドトラッキングを実現したHMDは過去にも存在していたが、Oculus Riftがスゴかったのは、スマートフォンの普及で安価になったセンサーや液晶などの部材を活用して、目新しいデバイスに飛びつく開発者の手に届く範囲でハードウェアを作り、ソフトウェアの開発も可能にしたことだ。現在は開発者向けキットが売られている段階だが、これも300ドル(約3万円)である。
平面のディスプレーでは絶対に得られない、全天周映像という新しい感覚が安価に手に入るとあって、昨年春に発売した初代の開発版(DK1)は5万5000台以上も出荷されたという。
さらに、日本時間の3月20日には、新型となる「Development Kit 2」(DK2)を発表した。ディスプレーにフルHDの有機ELパネルを採用して、残像感などを大幅に減らした。ヘッドマウント側に赤外線LEDを埋め込み、外部のカメラで検知することで、頭の向きや傾きだけでなく位置も検出できるようになった。発売は7月で、価格は350ドル。こちらも開発者向けにも関わらず、最初の36時間で1万2500台の予約が入ったという情報もあった。