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大谷イビサのIT業界物見遊山 第11回

ODM/OEMベンダーのニーズはあくまで限定的?

多品種時代が到来?サーバーベンダーの役割は終わってない

2014年01月21日 06時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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2014年のIT動向においてもっとも読みにくいのが、企業のITシステムやクラウドを基礎から支えるサーバー市場だ。クラウド事業者が存在感を増す一方で、仮想化や垂直動向システムの台頭も進んでいる。台数や売り上げのみではつかみにくい市場を概観する。

サーバー市場を読みにくくするこれだけの要因

 リーマンショック以降のIT投資の冷え込みから立ち直り、多くの調査会社のレポートでは、サーバーの市場は拡大傾向だ。IDC Japanが12月に出した2013年第3四半期の国内サーバー動向調査では、市場規模は前年に比べて12.2%拡大。出荷台数も前同期より0.6%増の15万6000台になったという。しかし、中身を見ると、メインフレームの出荷額の大幅な伸びが背景にあり、一時的な要因ともいえる。出荷額や台数の調査を通年で見ないと、恒久的な傾向をつかむのは難しい。

 もとより、サーバー市場の動向は、実につかみにくい。技術的な変化、ジャンル自体の変化、プレイヤーや顧客の変化などがきわめてダイナミックだからである。これらの変化要因が果たしてサーバー市場を拡大させるのか、はたまた縮小させるのか、正直わからないのだ。

 技術面での変化としては、マルチコア化の進展や省エネ技術の投入、あるいは仮想化やクラウドへの対応などが挙げられる。マルチコア化や省エネ化を進めることで、少ない台数で多くの処理が可能になるし、仮想化すれば、物理サーバーの台数はますます減る。つまり、今まで通りの処理であれば、サーバーの出荷台数はどんどん減るはずだ。しかし、ビッグデータというキーワードを引き合いに出すまでもなく、データ量は爆発的に増大し、おのずとサーバーの需要も増えることになる。また、仮想化のためには高速なCPUや大容量のメモリが必要になるため、仮想化が進むと、1台あたりの金額が高くなる傾向にある。両者のバランスが市場を拡大/縮小のいずれをドライブするのか、なかなか読みにくい。

 サーバー自体のジャンルも変化しつつある。新ジャンルの代表例がサーバー、ストレージ、ネットワーク、ミドルウェアまで統合したコンバージドインフラ、いわゆる「垂直統合型システム」だ。仮想化を前提としたハードウェアの統合は、もとよりブレードサーバーが目指していたものではあるが、運用管理やソフトウェア開発、アプリケーションへの最適化ノウハウまで幅広く統合することで、新しいジャンルを生み出したと言えよう。昨年は、インテル自体がコンバージドインフラのリファレンスモデル策定を始め、オープン化の動きも出てきた。まだまだブレイクにはほど遠いが、垂直統合型システムのメリットがユーザーに浸透し、導入事例が増えれば、サーバーの市場自体が大きく変わってくるはずだ。

 さらに顧客にも大きな変化が起こっている。この背景には、グーグルやフェイスブックなどのWebジャイアンツの台頭がある。数万台規模のサーバーを導入するデータセンターを擁するWebジャイアンツの場合、導入の規模やメンテナンスのサイクルがエンタープライズとはまったく異なる。昨今は、自社サービスへの最適化と極限までの固定コスト圧縮を目指すこれらのWebジャイアンツが、サーバーの自社開発や半導体の開発にまで乗り出している。この結果、Webジャイアンツのサーバー開発を請け負うOEM/ODMベンダーが急速に存在感を増すようになっており、大手ベンダーの脅威になりつつある。

数多くの要因から導き出した答えは1つ

 調査会社のアナリストではないため、数字を持ち合わせているわけではないし、ベンダーや顧客の調査も不足している。そのため、筆者には今後サーバー市場が拡大するのか、縮小するのかはわからない。しかし、はっきりしているのは、今後サーバーはニーズにあわせて多様化するという流れである。仮想化や垂直統合システムなど「統合化」という方向性に関わらず、さまざまなジャンルのサーバーが今後増えていくだろうという結論。各ベンダーの新製品を見れば、この動向は明白だ。

 たとえば、先日新製品が発表された「HP Moonshot System」(日本ヒューレット・パッカード)は、誤解を恐れずに言えば「アンチ仮想派のためのサーバー」だ。ハードウェアを共用するため、性能が頭割りになってしまうという仮想化の根本的な課題の解決をあきらめ、数多くの物理サーバーを高密度実装することで専有可能にしたプラットフォームがMoonshotの正体と言えよう。しかも、アプリケーションごとに最適なカートリッジを搭載でき、顧客ごとにセキュリティや性能を保証できるというメリットも持っている。もちろん、HP自体は仮想化に最適なブレードサーバーのプラットフォームも持っているが、Moonshotのようなアンチ派の商材も、きちんと品揃えとして用意しておこうというわけだ。

 既存の垂直統合型システムとは異なるアプローチでコンバージドインフラにチャレンジするデルもユニークだ。オラクルの「Exadataシリーズ」を代表とする多くの垂直統合型システムは、エンタープライズの利用を前提としており、フラッシュの搭載、ミドルウェアのチューニングなどで、性能や導入期間の短縮を図っている。一方、「Dell Active System」や「Dell PowerEdge VRTX」など、同社のコンバージドインフラ製品は、エンタープライズではなく、むしろ中小企業をターゲット。特化したハードウェアではなく、汎用製品を組み合わせ、パートナーがソリューションに仕立てやすいプラットフォームを用意しているのも「デルなら」ではだ。

 「サーバーは汎用化した」「完全にコモディティ化した」と言われる。確かにその通りだが、この見方は市場の一部の動向を切り取ったに過ぎない。その点、Webジャイアンツに製品を提供するOEM/ODMベンダーの台頭は、市場全体から見れば、一部の流れにとどまると思われる。技術的な選択肢が増え、顧客層のニーズが拡大し、製品がジャンルをまたぎだしたことで、ますます多種多様な製品が必要になる。サーバーとストレージとの統合、ビッグデータ向けの超並列型サーバーのほか、特にIoT(Internet of Thing)で用いられる産業向けサーバーは、堅牢性やワイヤレス、省エネなど、さまざまなバリエーションが要求される。今後、注目されるジャンルだ。

 一方で、ベンダー間の競争はますます厳しくなる。多種多様な製品を継続的に提供できるベンダーは限られるため、多くのベンダーはデータセンターだったり、汎用サーバーだったり、垂直統合システムだったり、おのずと自社の強みを活かした戦略にシフトするはずだ。2014年はサーバーベンダーにとって大きな決断の年になるかもしれない。

筆者紹介:大谷イビサ

 

ASCII.jpのTECH・ビジネス担当。「インターネットASCII」や「アスキーNT」「NETWORK magazine」などの編集を担当し、2011年から現職。「ITだってエンタテインメント」をキーワードに、日々新しい技術や製品の情報を追う。読んで楽しい記事、それなりの広告収入、クライアント満足度の3つを満たすIT媒体の在り方について、頭を悩ませている。


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