近年、大手サーバーベンダーから次々と「垂直統合型システム」をうたう製品が登場している。単一ベンダー製のハードウェアとソフトウェアを一体化/統合し、そこに独自の“ノウハウ”やチューニングを加えて出荷されるため、顧客は短期間で最適化されたITインフラを手に入れられる――というのが売り文句だ。
だが、そうしたITベンダーの主張に異を唱える人物がいる。デルでクラウドソリューション ブランドマネージャーを務める布谷恒和氏と、TECH.ASCII.jp編集長の大谷イビサだ。
今回は、大谷が書いた垂直統合型システムに関するコラムを読んだ布谷氏から、対談の呼びかけがあった。垂直統合型システムにはどんな問題があるのか、ほんとうにユーザーメリットをもたらすITインフラとはどのようなものなのか。ここでは白熱した2人の討論の模様をお届けしよう。
結局「垂直統合型システム」ってよくわからない
大谷:今日はよろしくお願いします。さて、まずは垂直統合型システムに対するお互いのスタンスを確認しておきましょうか。わたしは今年の5月に、垂直統合型システムを礼賛するIT業界の風潮に疑問を投げかけるコラムを書いています。
▼敵か?味方か?垂直統合型システムをめぐる素朴な疑問
http://ascii.jp/elem/000/000/780/780840/
記事に書いたので詳しくは繰り返しませんが、疑問を持ったきっかけは、とある新製品の発表会でした。そこでは「垂直統合型システム」をうたう新製品が大々的にお披露目されて、ベンダー側も「これこそ新しいコンピューターだ!」と言わんばかりの意気込みでした。
ですが冷静に考えてみると、どこが新しいのかがよくわからなかったのです。多数のハードウェアとソフトウェアを1つにまとめたものと何が違うのか。ミドルウェア技術でシステム構築や運用のノウハウまで統合したと言うが、それは現実的に“使える”ものなのか、実態がいまひとつわからない。
そういうモヤモヤを抱えたままでいるうちに、さまざまなサーバーベンダーが次々と同様のシステムを発表し、ほかのメディアも好意的に「これが次のシステムのかたちだ」と報じだしたんです。そこで初めて、ああ自分は異端だったのかと気づき(笑)、そのモヤモヤとした疑問をコラムに書いたんです。
布谷:そうだったんですか。わたしはこのコラムを“救いの神”だと思いながら読みましたが(笑)。
わたしはこれまでデルで、サーバー、仮想化、クラウドとエンタープライズ製品のマーケティングに携わってきました。さらにそれと並行して、デルが起ち上げた「OSCA(Open Standard Cloud Association)」というコンソーシアムの活動にも参加しています。OSCAでは、オープンで標準化されたクラウド環境を実用的なものにしようと、ベンダーや産学共同研究プロジェクトなど16の企業・団体が参加して動作検証や技術支援を行なっています。
そうやってずっとオープンシステムに注力してきたところに、いきなり「垂直統合」をうたうシステムが次々に出てきて、まずは違和感を覚えましたね。なぜ今さら先祖返りをしているのかと。
しかもこの種の製品は、英語圏では「統合システム(Converged System)」とは呼ばれますが「垂直統合型システム(Vertical Integration System)」という言葉は使われていないんですよね。誰がどういう意図でその言葉に翻訳したのか、それも気になりました。
しかし、業界内を見渡してみても「これはおかしいぞ」と言っているのは自分くらいしかいませんでした。某メディアでは「さよなら!オープンシステム」という記事まで掲載していましたし(笑)。そんなときに大谷さんのコラムを読んで、我が意を得たりと思ったのです。
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