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末岡洋子の海外モバイルビジネス最新情勢 第91回

なかなか進まないTizen、サムスンの切り札はほかにある?

2013年11月27日 12時00分更新

文● 末岡洋子

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SamsungはGoogleと対抗する
そのときの選択肢はTizenではない?

 Tizenの動きをみるとき、世界的に注目されているのは世界最大のモバイル端末メーカーである、Samsungの狙いだ。SamsungはGALAXYシリーズで世界最大のスマートフォンメーカーとなった。だが、GALAXYで利用されるのはGoogle PlayにはじまりGoogleの各サービスが主である。ハードウェアの影響力はソフトウェアに比べると弱く、Samsungが今後も王座を維持し生き残るにあたって、サービス面が大きな課題となっている。

 そこでTizen? と単純に考えたくなるが、Tizen発足から2年が経過する中で端末がないという状況を考えると、アプリをはじめとした新しいエコシステムがちゃんと立ち上がるのか、疑問に感じるところだ(SamsungはTizenアプリ開発を促進すべく、400万ドルの賞金を授与するアプリ開発コンテストを発表している)。SamsungにはBadaもあるが、Badaは新しい技術ではなくローエンド向けであり、本命になるとは考えにくい。

 ちょうどTizen Developer Summitが開催されたのと同じ週、サンフランシスコでモバイル分野の著名なアナリストであるRichard Windsor氏の話を聞く機会があった。Windsor氏は元野村証券の英国支社でモバイル分野のアナリストを務めた後、現在は独立した立場で活躍している。モバイルプラットフォーム勢力図を分析したあとで、Windsor氏が次の大きなバトルとして予想したのが「SamsungとGoogleの戦い」だ。

 Samsungといえば、現在はAppleとの争いが想起されるが、今後の方向性として対Googleの争いは“避けられない”とみる。Samsungはブランド力や流通などのハードウェアのアドバンテージでモバイル分野で高い収益性を出しているが、ハードウェアは早晩コモディティー化に向かう。

 「ソフトウェア、サービス側でなにか手を打たないと収益にだんだん影響が出てくる」とWindsor氏は予想する。Googleにしてみれば、(Motorolaを買収してはいるが)Androidを経由してGoogleのサービスを使ってもらうという点でSamsungに頼るのが現状からは得策だ。決して望み通りではないが、対Appleで利害関係は一致している。この関係がいつか崩れることは、想像できるシナリオだ。

 その時にSamsungがサービス強化で選ぶプラットフォームは、「Androidのフォーク(分岐)」とWindsor氏は見ている。Tizenという新しい技術を提示するよりも、Androidフォークならば既存のAndroid開発者を取り込むことができる。

 スマホでのシェアを活用すれば、Android開発者の多くをSamsungのAndroidフォークに向かわせることができる可能性はある……というのがWindsor氏の予想だ。「Samsungは事実上のAndroidコントロールをGoogleから奪うだろう」というWindsor氏の読みがあたるかどうかはわからないが、SamsungによるAndroidフォークという予想は合点がいくように見える。

 モバイル分野でハードウェアメーカーからのサービス拡大は難しい。NokiaはiPhone登場前に試みたが、iPhone登場によって、あっさり開発者を失った。SamsungはNokiaの失敗をよくよく熟知しているはずだ。周到に最善のシナリオを探った結果、どのような戦略を打つのか。

 第3四半期、スマホ市場は活況に沸き、過去最高の出荷台数を記録した。AndroidとiOSで固まってしまったように見える市場だが、Google、Apple、Samsungという三社の力関係、新興OSがどこまで影響を及ぼすのか、ここにきてNokiaの調子が少し上向いているWindows Phoneはナンバー3の地位を固めるのか、Amazonはどう出るのか、などを考えるとまだまだ一波乱ありそうだ。


筆者紹介──末岡洋子


フリーランスライター。アットマーク・アイティの記者を経てフリーに。欧州のICT事情に明るく、モバイルのほかオープンソースやデジタル規制動向などもウォッチしている

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