アップルが故スティーブ・ジョブズ氏の無借金経営を転換し、4月30日に1996年以来17年ぶりとなる社債を発行した。発行額は総額170億ドル、日本円にして1兆6600億円。アメリカの1企業としては金融機関を除き過去最高額となる。
背景にあるのは、大規模な株主への還元策だ。アップルは昨年3月、1995年以来となる株式配当を再開した。さらに2015年末までに、株主に総額1000億ドル(9兆8000億円)の利益還元をするプログラムを計画しているが、その資金調達のために今回の社債発行に踏み切ったという。もともとアップルには1450億ドル(14兆円)という莫大な手元資金がある。
しかし、このうち約7割が国外にあり、アメリカに戻す際に高い税率がかかってしまう。それと比べ、金利の低い社債を発行するほうが費用効率が高いとの判断が働いたようだ。この手元資金の存在で、アップルの社債は非常に安全とみなされている。現に30日に売却された6種の社債すべてが、流通市場で最も人気のある投資適格債に入っている。
もともとジョブズの方針は、経営が安定軌道に乗っても、手元資金は研究開発やビジネスの拡大のために使うべきで、株主配当に充てることを拒否するというもの。投資家への還元は「革新的なデバイスを発表し続けることで企業価値を高める」ことにあるとしてきた。
今回の配当の増額と社債発行は、多額の手元資金を持つアップルに対する株主の不満を解消するものにはなるだろう。しかし、ジョブズが確立した無借金経営を覆すなど、大きな転換点となったことも事実。これが去年秋以降続く同社の株価低迷にどう影響するか、注目したい。
アスキークラウド最新号特集
『Amazon』翌日配達を発想する「利益無視」経営
「Amazonは今や単なる「便利なオンライン書店」ではない。1995年に創業したベンチャー企業は小売業の枠を超え、物流サービス、クラウドサービスも提供する売上高5兆円以上の巨大企業ら成長。「価格破壊」を武器にオンラインからオフラインまで業界を問わず成長しつつある。アマゾンはなぜ急成長できたのか? 迎え撃つ日本企業の動向にも迫った。