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大谷イビサのIT業界物見遊山 第5回

ますます真価を問われるクラウド時代のメインフレーム

敵か?味方か?垂直統合型システムをめぐる素朴な疑問

2013年05月29日 08時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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日本IBMの「エキスパート・インテグレーテッド・システム」の登場を機に、いわゆる「垂直統合型システム」が俄然盛り上がっている。ハードウェア、ソフトウェアなどを一体化するアプライアンスにとどまらず、より深いSIノウハウを持ち込んだと説明される垂直統合型システム。各社の製品が出そろった感のある昨今だが、個人的には素朴な疑問は意外と解消されていない。

運用の効率化を実現するクラウド時代のメインフレーム

 垂直統合型システムとは、導入の迅速さや運用効率の最適化を実現すべく、ハードウェア、ソフトウェアを一体化した製品形態。従来、インテグレーションで提供されてきたシステムの最適化が事前に施されているところが、既存のアプライアンスとの大きな違い。エキスパート・インテグレーテッド・システム「PureSystems」を展開する日本IBMは「メインフレームの信頼性、アプライアンスの使いやすさ、クラウドの俊敏性などを合わせ持った新しいカテゴリのコンピュータシステム」を謳う。

 IBMやHP、オラクルといった大手ベンダーのほか、ナショナルベンダーである富士通が「Dynamic Integrated Systems」、日立製作所が「Unified Compute Platform」を展開。先日はNEC版の垂直統合型システムといえる「NEC Solution Platforms」も発表された。プライベートクラウド向けの統合型システムを分類し直したというベンダーもあるし、データベースやアプリケーション用の箱を作っていたら、垂直統合型システムに分類されたというパターンもある。このように出自は違えど、プレイヤーは出そろったようだ。

 ジャンル分けは微妙だが、始祖はやはりオラクルのデータベース専用機「Exadata(Oracle Exadata Database Machine)」だろう。HPのハードウェアから買収したサン・マイクロシステムズのハードウェアに鞍替えしたことで話題にもなったExadataだが、既存のDBビジネスを考えれば、ハードウェアとソフトウェアが統合され、チューニングまで施されているのはやはりインパクトのある製品形態といえる。処理速度も圧倒的に向上し、数時間かかっていた処理が数分にまで短縮されるとはよくアピールされる例だ。Exadataとの競合については、各社のベンダーの発表会でよく聞かれる質問なので、各社とも一目置いているのは間違いない。

垂直統合型システムのノウハウやビジネスに疑問

 ただ、垂直統合型システムについての素朴な疑問は未だに解消されない。この1年、私も発表会には何回か足を運んでいるし、ことあるごとに関連記事も読んでいるのだが、なかなか明確な答えが見つからない。

疑問1 垂直統合型システムで言う“ノウハウ”とは?

 一番気になるのは、垂直統合型システムでいうところの“ノウハウ”の正体だ。垂直統合型システムで導入期間が短く、運用効率が高いのは、単にハードウェア、ソフトウェアを統合しただけではなく、インテグレーションのノウハウまで含まれているからと説明される。たとえば、IBMのPureSystemsでは「パターンテクノロジー」と呼んでおり、プロジェクトで培った構成やパラメータ、ポリシー設定などが含まれるという。

 しかし、そもそもインテグレーションとは企業ごとのニーズが異なるからこそ、製品とは別に存在するもの。もとよりノウハウが統合できるのであれば、もっと早い段階で高速化や運用管理の効率化は製品レベルで実現できていたはず。Webアプリケーション、OLTP用のデータベースシステムなど、ある程度テンプレートにできるだろうが、構築や運用管理を大きく変化させるようなブレイクスルーがあったとは思えないのだ。

疑問2 垂直統合型システムでSIはなくなるのか?

 疑問1の通り、インテグレーションのノウハウが持ち込まれているという論に立つのであれば、垂直統合型システムの登場により、「システムインテグレーションがなくなる!」という意見が出てもおかしくない。実際、「SIも運用も消える」と謳っているメディアもあるし、「SI作業の70%を削減できる」と明言する大手ITベンダー幹部もいる。もちろん「だったら最初からこれを作ってくれよ」というユーザーの声もあるだろう。

 とはいえ、垂直統合型システムの登場でSIがなくなるとは思えない。結局、製品自体で吸収できるところと、これまで通りシステムインテグレーションでカバーするところは併存するだろう。Salesforceなどのノンカスタマイズで使うユーザーの多い米国に比べ、日本ではオーダーメイドやカスタマイズのニーズは高い。その点、製品でどこまでSI部分が共通化されるのかは興味深い。また、ユーザーで共通する汎用ノウハウの割合が増えてきたから製品に統合できたのか、なんらかの技術的なブレイクスルーが存在したのか、今後も追うべきテーマであろう。

疑問3 垂直統合型システムはベンダーロックインをもたらす?

 「垂直統合」は「水平分業」と対になる表現だと理解している。そのため、垂直統合型システムは特定のベンダーのロックインをもたらすとも言われる。クラウド型ロックインと相反する垂直統合型システムのロックインだ。、

 個人的にはユーザーの要件にあっていれば、ロックインはよくないと目くじら立てる必要もないと思う。また、オープンシステム時代の昨今、ハードウェアやソフトウェアを異ベンダーに組み替える程度であればあまり問題はないだろう。実際、ストレージベンダーの「VBlocks」や「FlexPod」などのインフラアプライアンスは異ベンダーの製品で構成されている。

 しかし、垂直統合型システムはベンダーのノウハウが接着剤の役割を果たして、最適化された1つのシステムだ。確かにベンダーロックインされやすい。一方、IBMやHPはSIerやISVなどが幅広くソリューションを展開できるオープン性を謳う。オープンか?ベンダーロックインか? 難しい課題だ。

疑問4 垂直統合型システムの技術革新は?

 垂直統合型システムは単に製品を寄せ集めたアプライアンスとは異なるという。では垂直統合型システムならではの技術とはなにか? と聞かれると、はたととまどってしまう。

 たとえば、垂直統合型システムは「導入がスピーディ」というメリットがある。この理由は、サーバー、ストレージ、ネットワークからOS、ミドルウェアまでを統合して最適化されているからと説明される。前述したPureSystemのパターンテクノロジーはその最たるモノだ。確かに垂直統合型システムならではの技術の恩恵を受ける部分かもしれない。

 一方、「処理能力が高速」とパフォーマンスがアピールされることも多い。ただ、これは垂直統合かどうかは関係なく、単に高速なフラッシュを導入しているからということも多い。最近の垂直統合型システムやデータベースアプライアンスでは、ほぼSSDやフラッシュが組み込まれているため、I/O性能は従来に比べて大幅に向上する。とはいえ、垂直統合しているから、高速化したわけではない。意外とこの部分は混同されているきらいがある。

疑問5 垂直統合型システムはどこが儲かるのか?

 垂直統合型システムの発表会では、「売り上げはどこの事業部につくのですか?」という質問がよく出てくる。発表会には、垂直統合ハードウェア、ソフトウェアなどを手がける事業部の部長がずらりと出てくるわけだから、そんな質問もしてみたくなる。

 もちろん、実際その割合を知りたいわけではなく、質問の真の意図はベンダー自体がこうした垂直統合型システムを販売できる組織や事業構造になっているか?というものだ。これに関してはまだまだ明確な答えが出ていない気がする。

 今後、クラウドと同じく、垂直統合型システムがメジャーになってくれば、ベンダー側の組織やビジネス体制に大きな変化を強いることになるだろう。だが、その姿はまだ見えない。


 このように垂直統合型システムで解消されていない疑問は未だに多い。市場に向けてのインパクトも、なかなか推し量れないのが正直なところだ。とはいえ、製品ジャンルとして確実に成立しており、ユーザーの認知度も徐々に上がってきた感触がある。また、Exadataのようにすでに導入事例が増え、世代を重ねるごとに製品の成熟度が高まっている製品も多い。今後も上記の質問に対して、より積極的に取材を進めたいと考えている。


筆者紹介:大谷イビサ

 

ASCII.jpのTECH・ビジネス担当。「インターネットASCII」や「アスキーNT」「NETWORK magazine」などの編集を担当し、2011年から現職。「ITだってエンタテインメント」をキーワードに、日々新しい技術や製品の情報を追う。読んで楽しい記事、それなりの広告収入、クライアント満足度の3つを満たすIT媒体の在り方について、頭を悩ませている。


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