VIAに買われるもCyrixのビジネスは縮小
VIA Technologyはどんな思惑でCyrixを買収したのか? 当時のVIAはインテルと、互換チップセットのバスライセンスを巡って激しく対立していたことが関わっている。
もともとSocket 7の頃から、バスライセンスを巡る駆け引きは始まっていた。そこでインテルはSocket 7をいち早く捨てて、Pentium Proで採用された「P6バス」に移行するとともに、これを特許で保護して互換チップセット対策をしながら、必要に応じてP6バスライセンスを提供する方針に切り替えた。
VIA TechnologiesはP6バスライセンスを1998年に取得するが、このライセンスは縛りが厳しかった。例えば66MHzと100MHzのFSBは利用できても、133MHzは利用できないといった細かい制約があった。インテルは1999年に、Pentium IIIのFSBを133MHzに移行する。そしてVIAが133MHz FSBとPC-133メモリーに対応したチップセット「Apollo Pro 133」「Apollo Pro 133A」をリリースしたことを「ライセンス違反」とし、VIAへのライセンスを剥奪する。以後インテルとVIAは、これを巡って法廷闘争を繰り広げていた。
もっともこれはVIAにとっては、ある意味織り込みずみだったのだろう。当時VIAの主力ビジネスはチップセットだったから、ここでライセンスを得ることは非常に重要であり、勝つ必要はなくても、負けない工夫が必要だった。その一方で、チップセットビジネス自体が次第に厳しくなってゆくことを、VIAは理解していた。
そこでチップセット以外のビジネスも確立することを狙っており、VIAは法廷闘争以前からネットワーク製品のラインナップをそろえていた。また2000年には、GPUメーカーであるS3の資産を買収するなど、製品ポートフォリオを増やす方向に舵を切っていた。こうした状況下でCyrixが売りに出されたことは、VIAにとって訴訟対策と製品ラインナップの両面から、非常に申し分ない買い物に見えたはずだ。
1999年6月末、VIAがNSから買収した直後のCyrixチームは、安堵というか喜んでいたという話が伝わってきていた。彼らの目論見が正しければ、VIAは引き続きCyrixの製品ラインナップを維持するはずだからだ。これが一転したのは、1999年8月にVIAが、x86互換CPUの「WinChip」シリーズを開発していたCentaur Technology社の買収を発表したからだ。
CentaurもCyrixに似て小さな設計チームで構成されており、省電力を売りにした製品をラインナップ。こちらもSocket 7からSocket 370へ移行している最中だった。いくらなんでも2つの設計チームと製品ラインナップは多すぎる。この直後からCyrixの設計チームは急速に解体されていく。
結果から言えば、VIAはCyrixの持ついくつかのライセンスや権利、所有していたパテントを有効に活用して、2000年7月にインテルと和解するとともにライセンス契約の更新に成功する。2001年には再びインテルとVIAの間で、今度はPentium 4世代の「P4バス」を巡って再び訴訟が始まるのだが、これはまた別の話である。
名前はGobi? Joshua?
出荷されることもなく切り捨て
とりあえずこの和解によって、VIAはP6バス向けの互換チップセットを、大手を振って販売できるようになった。この和解にCyrixの持つ権利が有利に働いていたことは間違いない。
というのは、2000年6月に発売されたVIA C3は、当初「VIA Cyrix III」の名称になっていたからだ。中身はWinChip系列を延長した「Samuel」「Samuel2」コアだったにも関わらず、Cyrixの名前を商品にあえて冠した理由は、Cyrixの持つ「なにか」が必要だったことを物語っている。だがその「なにか」とは、CPUコアではなかった。
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