連載9回でも触れているが、筆者の手元にはGobiをベースにした、C3になり損ねたプロセッサーの仕様書がある。表紙には「Joshua Processor」と書かれており、CyrixとVIA両社のロゴがある。
ところが表紙をめくると、次のページには「Gobi PROCESSOR」と書かれている。
動作周波数は、この時点ではまだ確定していなかったようだ。仕様書の後半、「DC Characteristics」(直流電源に関する特性)にある消費電力の項目は、「300/333/350/360/40/433/450/500MHz」の記述があるものの、全部「TBD」※1になったまま。実際にはどこまで動作周波数を上げられるはずだったのかは不明のままだ。
※1 To Be Definedの略で、未定の意味。
Gobiと前身であるM2プロセッサーとの違いは、以下の写真のようになっている。ここまでの仕様書が存在して、サンプル品とは言え評価用のプロセッサーが、2000年2月には筆者の手元までやってきていた。つまり、Gobiの開発はほぼ終了していたと考えていいだろう。
それにも関わらず、VIAは結局このGobiベースのJoshuaを発売しなかった。その代わり、2000年6月にはCentaurの開発していたSamuelを、VIA C3(VIA Cyrix III)として発売。Joshuaはそのまま闇に葬り去られてしまったわけだ。
なにが悪かったのかと言えば、VIAにとってGobiは、あまりにダイサイズが大きいため生産コストが高く、消費電力が多いので発熱も多く、そのわりに性能が高くなかったためと考えられる。絶対的な性能で言えば、SamuelベースCPUの方が低い。しかしSamuelははるかにパイプライン化が進んでいたから、より高い動作周波数まで引き上げることができたし、ダイサイズも小さかったから低コストで実現できた。これはPC市場だけでなく、組み込み市場やモバイル方面の活路を模索していたVIAにとって、非常に有用な特徴だった。
またM2の後継となる「M3」こと「Jalapeno」が、あまりに意欲的すぎて実現可能性が薄かったため、将来性に疑問符が付いたことも、M2系列を捨て去る理由のひとつになったのではないか。WinChip系列は地味ではあるが、将来ロードマップがもう少し確実に提示されたと思われる。そのあたりが「無理にGobiを残してもしかたない」と、割り切らせた理由の一因であろう。
完成までしていながら、あっさりなかったことにされたという意味では、インテルの「MXP5400/5800」に匹敵するかわいそうなプロセッサーが、このGobiであった。
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