アーキテクチャーライセンスのデメリット
まずライセンス費そのものが、アーキテクチャーライセンスの方が高価である。
アーキテクチャーライセンスはあくまで「アーキテクチャー」だけなので、CPUパイプライン構成を含む全体は、ライセンスを受けた半導体メーカーが新規に作る必要がある。自社でCPUを作った経験や、そうしたことに長けたエンジニアを抱えていない限り、そうした開発は難航しやすい。
またアーキテクチャーライセンスでは、製造も当然半導体メーカーの責任において行なう必要がある。これは特に28nmや20nmといった先端プロセスでは、製造そのもののリスクが高い。CPUライセンスの場合、ARMは主要なファウンダリ(TSMCやGLOBALFOUNDRIES、UMCなど)と共同で開発する、「Processor Optimization Package」(POP)と呼ばれる最適化キットが利用できる。
アーキテクチャーライセンスで提供されるIPは、ようするに低レベルの設計図である。製造に当たっては、どんなパラメーターでトランジスターを使うとか、どう配置配線を行なうかなどの物理的な設計作業を、半導体メーカーが行なう必要がある。ところが40nmプロセス以降では、これが非常に難しくなっている。28nmや20nm世代になると、技術力のある半導体メーカーでないとこれは難しい。
一方のPOPは、あらかじめそのプロセスに最適化してARMが物理的設計を済ませたもので、半導体メーカーはこれを入手するだけで、CPUコアの物理設計がほぼ済んでしまう。
★
あまり知られていないが、APMは2004年にIBMから、「PowerPC 400」シリーズの資産を丸ごと買収。同CPUを製造するとともに、自社でも2006年頃から、「Titan」と称するPowerPCベースCPUを開発している。このTitanは何度か設計変更があり、その最中に会社の方針が変わったこともあってか、事実上消えてしまった幻のCPUコアになってしまった。しかしここでの経験は貴重だったようで、その後同社はPowerPCやARMベースの高性能なネットワーク向けプロセッサーを次々と製品化している。
APMがアーキテクチャーライセンスを得てX-Geneの開発を選択したのは、こうした経験を元に「イケる」と判断したのであろう。Cortex-A57/A53はおそらく28nmプロセスでも製造できるが、本命は20nmプロセスと目される。それに対してX-Geneは40nmから製造を始めるのも、APMが40nmの経験が豊富という点からのリスク回避であろう。
当然これは、性能面でややハンデとなるが、それは逆に内部構造の強化でカバーできると踏んだと考えられる。詳しくは次回で説明するが、Cortex-A57ですら3命令同時発行のアウトオブオーダーでしかないからだ。
他方NVIDIAは、GPUの経験はもちろん豊富であるが、CPUに関してはこれまで、Cortex-AシリーズのCPUライセンスを受けて実装するに留まっていた。CPUを自社開発するのは、これが初めての経験となる。このあたりで多少手間取っても不思議ではなく、これがAPMよりやや開発が遅れている理由のひとつであろう。
次回はCortex-A57/A53の特徴について解説しよう。
この連載の記事
-
第768回
PC
AIアクセラレーター「Gaudi 3」の性能は前世代の2~4倍 インテル CPUロードマップ -
第767回
PC
Lunar LakeはWindows 12の要件である40TOPSを超えるNPU性能 インテル CPUロードマップ -
第766回
デジタル
Instinct MI300のI/OダイはXCDとCCDのどちらにも搭載できる驚きの構造 AMD GPUロードマップ -
第765回
PC
GB200 Grace Blackwell SuperchipのTDPは1200W NVIDIA GPUロードマップ -
第764回
PC
B100は1ダイあたりの性能がH100を下回るがAI性能はH100の5倍 NVIDIA GPUロードマップ -
第763回
PC
FDD/HDDをつなぐため急速に普及したSASI 消え去ったI/F史 -
第762回
PC
測定器やFDDなどどんな機器も接続できたGPIB 消え去ったI/F史 -
第761回
PC
Intel 14Aの量産は2年遅れの2028年? 半導体生産2位を目指すインテル インテル CPUロードマップ -
第760回
PC
14nmを再構築したIntel 12が2027年に登場すればおもしろいことになりそう インテル CPUロードマップ -
第759回
PC
プリンター接続で業界標準になったセントロニクスI/F 消え去ったI/F史 -
第758回
PC
モデムをつなぐのに必要だったRS-232-CというシリアルI/F 消え去ったI/F史 - この連載の一覧へ