Ninaの登場はSiriに関係ある?
これまでもNuanceは、iOS向けに「Dragon Mobile SDK」や「NDEVモバイル」など音声認識技術の開発キットを提供してきたが、Ninaはもう一歩先へ踏み出した機能を提供する。現在のところ日本向けの発表はなく、米国向けのプレスリリースくらいしか資料はないが、あわせて公開されているYouTubeビデオなどからどのような機能/アプリがiPhoneにもたらされるのか、Siriとの関係も踏まえて考えてみたい。
その前に、現状のSiriについて整理しておこう。Siriはいまだベータ段階という位置づけで(このページの下にも小さな字で記載されている)、Siriに対応したアプリの開発も一般のデベロッパーには許可されていない。当然APIも未公開であり、音声認識を利用したアプリ開発はアップル純正の機能ではまかなえない。いずれ公開されると期待したいが、そうなったとしても必ずクラウドへのアクセスを伴うサービスなだけに、利用に際しての制約は少なくなさそうだ。
今回公開されたNinaは、Siriと共通の技術基盤を有するという点でSiriを補完する存在となりうるが、一部Siriを上回る機能を備えている。たとえば、音声による個人認証。現在公開されている情報で判断するかぎり、iOSに音声ベースの個人認証機能が搭載される具体的な計画はない。すべてを音声で処理しようとせず、ボタンによる操作もできるようUIを整備している点も、実用性という意味でSiriの先を行くものだ。
それらの特徴を生かすことで、Nuanceは音声入力機能を活用したアプリの“次世代”を目指しているらしい。ビデオの形にまとめられているデモを見ると、金融機関と連携した支払い明細のチェックや残高確認であったり、ホテルや航空券の予約であったり、自分の声をパスワードとして利用していたりと、Siriのアシスタント機能の一歩先を行っている印象がある。
Siriとは別の実装……と言ってしまえばそれまでだが、アップルもサードパーティーにSiri APIを公開すれば、このNinaに近い機能を持つアプリの開発が盛んになるだろうし、奇想天外な活用法を提示するデベロッパーも現れるはず。どのように利用料金を課すかという重要かつ微妙な問題(仮にパーユースの場合、利用ごとの課金をユーザーに負担させる妙案はなかなかない)は残るが、音声認識という次世代のユーザーインターフェースを浸透させるためには、どこかで落としどころを見つけなければならないのかもしれない。
筆者紹介―海上 忍(うなかみ しのぶ)
Twitter:@u_shinobu
ITコラムニスト。OS XのUNIX寄りの機能解説を得意とするが、そのような依頼が多くて、とは本人の弁。近年では、スマートフォンやA&V機器の取材・執筆にも力を注ぐ。OS Xなど各種TIPS記事を集積したサイト「TELAS」の運営にも関わっている。
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