苦戦するCortex-Rシリーズ
最後にCortex-R系を簡単にまとめよう。最初の製品である「Cortex-R4」が発表されたのは2006年5月。当時想定していた市場は、32bit MCUよりも処理性能が必要な分野、例えばHDD上のコントローラーやネットワークのパッケット処理などである。
当時のARMの試算では、この市場は2008年に10億個以上のコントローラーが必要と予測され、これに向けた製品がCortex-R4である。結果、Cortex-R4はフロントエンドが2命令同時処理のスーパースカラー構造。バックエンドは、一部アウトオブオーダーを含む、4命令ユニットが搭載されるインオーダーという、コントローラーとは思えないほどに強力なコアであった。
特にCortex-R4は、リアルタイム制御を意識して、割り込み処理の高速化に重点が置かれている。割り込みが発生してから実際に割り込み処理ルーチンが動くまでのレイテンシーは、Cortex-A/Cortex-M系よりも少ないのが売りであった。
だが「実際の採用例は?」というと、ARMが想定していた市場を獲得できているとは言いがたい。「Baseband Modem」はまだしも、HDDは市場自体が縮小傾向にある始末。車体制御に関しては、まったくといってよいほど食い込めていないようだ。そうこうしているうちに、Cortex-M系の性能がどんどん向上してきた。
上のスライドはCortex-R4発表時の性能チャートだが、最近はCortex-M4搭載で200MHz駆動の製品もあり、性能は250DMIPS/MHzという計算になる。おまけに、内蔵するDSPエンジンを使うとさらに処理性能があがるため、そうなるとほぼCortex-R4と変わらなくなってしまう。
こうした動きを受けてか、2011年にARMは「Cortex-R5」と「Cortex-R7」を発表している。R5はR4の後継、R7はさらに上のパフォーマンスを狙ったという位置づけだ。R5/R7は自動車の車体制御向けを狙い、ECCの搭載やデュアル構成による安全性の向上などを実現することで、自動車市場に食い込みたいと狙っているようだ。
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