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最新ヘッドホンでミュージック・ライフを向上しちゃおう! 第2回

日・独・米の人気メーカーに聞いたヘッドホンのこだわり!

2012年07月03日 12時00分更新

文● 鳥居一豊

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世界で唯一のコンデンサー型ヘッドホン
日本の老舗「スタックス」

埼玉県入間郡にあるスタックスの試聴室。事前に予約すれば誰でも利用可能とのこと

埼玉県入間郡にあるスタックスの試聴室。事前に予約すれば誰でも利用可能とのこと

 そして、最後は日本のメーカーだ。日本メーカーは第1回で取り上げているが、個人的な希望もあってスタックスに話を聞くことにした。

 お相手をしてくれたのは、有限会社スタックスの代表取締役社長である目黒陽造氏。中学生の頃に鉱石ラジオを作り、うまく音が出ないためにラジオの仕組みを勉強したという経験を経て、以来オーディオ一筋だという。

スタックス 代表取締役社長の目黒陽造氏

スタックス 代表取締役社長の目黒陽造氏

 その経歴も、JBLの輸入を扱っていた頃の山水電気、そしてラックスを経てスタックスに至るという。面白いのは、JBL×山水からスタックスという変遷。音の出方といい質感といい、まったく正反対だと思うのだが……。

 目黒:「JBLは言わば個性のかたまりのような音。スタックスは個性がほとんどありません。確かに正反対ですし、最初は物足りないと感じましたね。でも、ある日、ふっと疲れたときにクラシックを聴いてよくわかりました。名水のような感じで、ただの水ですが味わいが深いんですよ」

四角形のハウジングが特徴的な「SR-507」

四角形のハウジングが特徴的な「SR-507」

 個性がないと言われるスタックスのコンデンサー型ヘッドホンは、世界でも唯一の物。ここで簡単にその仕組みを紹介しよう。原理としては下敷きで頭を擦ると髪の毛がひっぱられる静電気を利用している。そのため、コンデンサー型の別名として、静電型(エレクトロスタティック型)とも呼ばれる。

振動膜を固定極でサンドイッチする構造になっている

振動膜を固定極でサンドイッチする構造になっている

 コンデンサー型は、音を出す振動膜の両側を固定極でサンドイッチする構造となっている。振動膜に580Vのバイアス電圧をかけると静電気が発生し、両方の固定極から引っ張られて振動膜から浮いた状態となる。

 この状態で、固定極に交流信号(音楽信号)を入力すると、プラスマイナスの変化に合わせて振動膜が動き、音が出るというわけだ。

 ダイナミック型は磁石の力を使うので、バイアス電圧などは必要ない。ヘッドホンそのものに電力は必要がないが、コンデンサー型はバイアス電圧を常時かけておく必要があるので、専用のドライバー回路が必要となる。これが大きな違いだ。

 目黒:「振動膜と固定極のすき間は0.5mm。つまり振動膜は0.5mm以下しか振動しません。そのため歪みが極めて少ないのです。一般的なダイナミック型の振動板を測定すると30%の歪みがありますが、コンデンサー型は0.3%しか歪みがありません」

 この圧倒的な低歪みが純度の高い音の秘密だ。その一方で、振幅が少ないためドンと来るような音圧感は出しにくいということになる。

 実はスタックスはずいぶん前にコンデンサー型スピーカーも発売していた。その名は「モノリス」で、まさに「2001年宇宙の旅」のモノリスのような、一枚板のような形状をしていた。当時筆者は「このスピーカーをいつか手に入れたい!」と思っていた憧れの存在でもある。

 目黒:「スピーカーとなると音圧がとれないことが大きな弱点でしたね。また、コンデンサー型は湿気の影響を受けやすい弱点もあり、梅雨の季節がある日本では使いにくかったのです。また、スピーカーの場合はバイアス電圧が2000~3000Vと高く、感電の危険もありました」

 このため、スピーカーは決してうまくはいかなかったものの、ヘッドホンならば音圧の心配はなく、コンデンサー型のよさを生かせる。そうしてコンデンサー型ヘッドホン一筋のメーカーになったというわけだ。

 スタックスが自社の製品をヘッドホンではなく“イヤースピーカー”と呼んでいるのも、元々はスピーカーメーカーだったためだそうだ。

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