最新ヘッドホンの魅力をさまざまな角度からレポートしていく特集の第2回は、ボーズ、ベイヤーダイナミック、スタックスという、多くの人に人気の歴史あるヘッドホンメーカー3社を取材し、そのブランドが愛されている理由や魅力ある音作りの秘密に迫っていく。
そのブランドの歴史や沿革を知ったからといって、製品の音がよく聴こえるようになるわけではない(愛着は深まるが)。だが、そのメーカーがどういう狙いで音作りをしているかという部分は、筆者はもちろんのこと、読者も関心があるのではないだろうか。そのあたりを中心に話を聞いた。
生演奏の音を忠実に再現したい!
ボストンの研究開発メーカー「ボーズ」
ボーズと言えば、オーディオにあまり関心のない人でも名前くらいは知っているであろう有名なアメリカのメーカー。その知名度の高さの理由には、さまざまな店舗の音響設備として使われることの多さが大きいだろう。
MIT時代に設立者のボーズ博士が手に入れた、当時としては最高性能のスピーカーの音に愕然とし、本物の楽器の音とスピーカーの音の聞こえ方が違うこと、その理由について研究を始めたことが1964年のボーズ社設立に繋がったというのはわりと有名な話だ。
そのボーズでは、マーケティング部の硲 夏希氏に話を聞いた。生演奏とスピーカーの音の聞こえ方の違いという点では、単にスピーカーの性能や技術的な研究だけにとどまらず、家の中でどのように音が響いて耳に届くのかを研究する室内音響学、耳に入った音がどう脳内で認知されるのかを調べる音響心理学など、さまざまな分野にまたがって研究を進めている。
硲(以下、人名敬称略):「ボーズはスピーカーやヘッドホンのメーカーというよりも、音についての研究・開発メーカーです。その研究結果から、ユーザーに利便性を提供できるものを製品化しているわけです」
そのため、ボーズ黎明期の代表モデルとも言える「Model901」の発表後は、プロフェッショナル用のスピーカーに進出。民生用からカーオーディオ用スピーカー、果てはスペースシャトルの機内スピーカーにいたるまで、ボーズのスピーカーが活躍する場は広い。
そして、1994年にはホールやライブハウスなどの音響を、施工する前に完成後の音響を確認できるシステム「Auditioner」などの開発も行なっている。
史上初の航空機用ノイズキャンセリング・ヘッドホンを開発
そして、いよいよヘッドホンだ。ヘッドホン自体は民生用としては2001年に日本で発売されたノイズキャンセリング・ヘッドホン「クワイアットコンフォート」が第1号と比較的歴史が浅いイメージはある。しかし、そのスタート地点は1989年の史上初の航空機用のノイズキャンセリング・ヘッドセットの発表となる。
硲:「これも、ボーズ博士がボストンの会社に戻る飛行機で、基本的なアイデアを思いついたという話があります。航空機の騒音はご存じの通りかなりのもので、その騒音の中できちんと会話ができるということは重要なことでした。ここでノイズキャンセル技術が生まれたわけです」
この技術は空軍にも採用され、パイロット用のヘルメットなどにも使われた。航空用、軍事用として品質や耐久性も鍛え抜かれ、2001年に満を持して民生用として発売されたというわけだ。
外界の騒音をマイクで集め、それと打ち消し合う逆位相の音を再生することで騒音をキャンセルするのがノイズ・キャンセルの仕組みだ。初代のクワイアットコンフォートは、その技術を採用しているのはもちろんだが、意外なことに集音用のマイクはイヤーパッドの内側にある。
マイクが拾うべきノイズは耳を遮蔽するハウジングの外側のものではなく、ハウジングに侵入してくる内側の騒音なのだから、言われてみると納得の話ではある。
クワイアットコンフォートは、発売以来進化を続け、耳を包みこむアラウンドイヤータイプの「クワイアットコンフォート15」(実売価格4万円前後)が登場。こちらは外側にもマイクを装着し、内外の騒音を解析することでより精度の高いノイズキャンセル性能を実現している。
そして、耳に乗せるオンイヤータイプの「クワイアットコンフォート3」(実売価格4万7000円前後)は、遮音性能としては不利な耳乗せ式でありながら、アラウンドイヤータイプと同等の遮音性を実現するため、イヤーパッドの素材を改良して感触をよくし、しかも遮音性能を向上している。電気的なノイズキャンセル技術と、ヘッドホンの遮音性の両面から性能を高めているわけだ。
クワイアットコンフォートに盛り込まれた研究成果はこれだけではない。航空機の騒音(主に低周波ノイズ)が身体的、精神的にストレスを与えるが、それらの身体に悪いノイズだけをキャンセルするように調整されている。そのため、リラックスでき、仕事への集中力が増す、気持ちのいい静かさを実現できたのだ。

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