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編集者の眼第41回

書き始めで悩まないための作文テクニック

2012年06月28日 14時54分更新

文●中野克平/Web Professional編集部

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 小説家になりたいわけでもないのに作家の書いた文章術の本を読んだり、ジャーナリストになるわけでもないのに新聞記者の文章論を読んだりするのは時間の無駄だ。5月10日にWeb制作会社のロフトワークと共催した「ユーザーコンテキストに応えるWebライティングの鉄則」セミナーはキャンセル待ちが発生するほど盛況で、Webライティングで悩んでいる人が多くいることに気付いた。だが、人々を感動させたり、感動によって世の中を動かしたい人が増えたわけではないだろう。ブログやTwitterはもちろん、ちょっとした商品説明やWebサイトの事業紹介文など、プロの文章書きではないのに仕事で文章を書く機会が多くなっただけのはずだ。

 雑誌編集の駆け出しの頃、「日本語の美しさを守るのが雑誌編集者の仕事だ」と言われたことがある。インターネットが当たり前になった今、そこまでの自負を持っている編集者は少数派だろうが、駆け出しライターから日本語の苦手なテクニカルライターの書いた文章まで、「文章のプロ」とはいえない人の書いた文章を多くの人が読んで理解できるように手直しし、あるいは書き出しから書き換えて立ち読みで済まさずレジに持っていこうと思わせる作文のノウハウを持っているのは、たぶん編集者だ

 雑誌的な文章でもっとも重要なのは、密度を高めることだ。何がいいたいのかわからない低密度の文章は読みにくく、売り物にならない。たとえば以下は、はてなブックマークの「最近の人気エントリー」に入っていたiPhone 4Sと一緒に買いたい約5回フル充電できる外部バッテリのまとめという記事の一部である。ハッキリ言って、これでは売り物にならない。

 TwitterやFacebookが普及し、ある意味で社会インフラとして機能しています。iPhoneユーザーにしろアンドロイドユーザーにしろ、スマホの電池切れは死活問題です。製品の進化は急激なのにバッテリーの持ちは改善されない。最近では、1日電池が持たないという意見を耳にします。お勧めの飲食店を探したり、友達とメールをしたり、なくてはならない存在です。バッテリー切れは絶対避けたい。そんな方こそモバイルバッテリーをカバンの中に入れておくべきです。長期の出張でも2回分以上の充電ができれば安心ですよね。今回は5,000mAhを越える大容量バッテリーを9種類選んでみました。

iPhone 4Sと一緒に買いたい約5回フル充電できる外部バッテリのまとめ

 私が担当編集なら、以下のように書き直すだろう。

 iPhoneやAndroidがあれば、TwitterやFacebookを外出先でも利用できます。しかし、近くの飲食店を探しているときの電池切れは絶対避けたいです。そこで今回は5000mAhを超える大容量電池を9種類選んでみました。1泊2日の出張でも2回分以上充電できれば安心です。


 もとの文章が285字なのに対して、編集後は140字。半分以下に省略できた。もとの文章の最大の問題は、「TwitterやFacebookが普及し、ある意味で社会インフラとして機能しています」という事実と、「スマホの電池切れは死活問題です」という問題提起に何の関係もないことだ。「大容量バッテリーを9種類選ぶ」という導入部の結論を導き出すには、大容量のモバイルバッテリーが必要とされる状況が誰にでも起こりうることを冒頭で描き、一般的な方法では解決できない問題があることを指摘しなければいけない

 こういう編集者の思考方法を手に入れるのは時間がかかるが、ある程度のことはノウハウとしてすぐに会得できる。たとえば、以下のように一文ずつ箇条書きにすると、元の文章の稚拙さが明らかになる。

  1. TwitterやFacebookが普及し、ある意味で社会インフラとして機能しています。
  2. iPhoneユーザーにしろアンドロイドユーザーにしろ、スマホの電池切れは死活問題です。
  3. 製品の進化は急激なのにバッテリーの持ちは改善されない。
  4. 最近では、1日電池が持たないという意見を耳にします。
  5. お勧めの飲食店を探したり、友達とメールをしたり、なくてはならない存在です。
  6. バッテリー切れは絶対避けたい。そんな方こそモバイルバッテリーをカバンの中に入れておくべきです。
  7. 長期の出張でも2回分以上の充電ができれば安心ですよね。
  8. 今回は5,000mAhを越える大容量バッテリーを9種類選んでみました。

 編集者的に文章を組み立て直すときは、各項目の前後に因果関係があるか、順に見ていけばよい。たとえば4行目の「最近では、1日電池が持たないという意見を耳にします。」と5行目の「お勧めの飲食店を探したり、友達とメールをしたり、なくてはならない存在です。」には関係がない。各文をなんとなくの因果関係で並べ替えると、以下のようになるはずだ。

  1. TwitterやFacebookが普及し、ある意味で社会インフラとして機能しています。
  2. お勧めの飲食店を探したり、友達とメールをしたり、なくてはならない存在です。
  3. iPhoneユーザーにしろアンドロイドユーザーにしろ、スマホの電池切れは死活問題です。
  4. 製品の進化は急激なのにバッテリーの持ちは改善されない。
  5. 最近では、1日電池が持たないという意見を耳にします。
  6. バッテリー切れは絶対避けたい。そんな方こそモバイルバッテリーをカバンの中に入れておくべきです。
  7. 長期の出張でも2回分以上の充電ができれば安心ですよね。
  8. 今回は5,000mAhを越える大容量バッテリーを9種類選んでみました。

 5行目を2行目に持ってくるだけで、何となく論旨が明確になる。私が編集するときの基本方針は、一般的な事実→解決できない問題の提示→問題の解決策という順に文章を組み立て直すこと。この順番でないと、多くの読者が納得する文章にならない。また、文章の冒頭には、本文のテーマになる言葉を置くとよい。大容量バッテリーを紹介するのにTwitterやFacebookの一般化という社会現象を取り上げるのは一見頭がよさげだが、話題としては遠い。iPhoneで使える大容量バッテリーを扱うなら、「iPhone」で書き始めた方が読者に無駄な期待を抱かせずに済む。文章を書くとき初めの一語に困ったら、このコラムを「小説家」で書き始めたように、テーマと関係のある言葉を置くとよいだろう。反対に、よくある「私」や「最近」で書き始めると自由度が高すぎて結論に導くのが難しくなる。例として示した編集後の文章は、冗長表現を省いたり、より具体的な言い回しに変えることで、文意を変えずに圧縮してあるつもりだ。

 こんな編集者の考え方をワークショップ形式のセミナーで紹介することになった。「素人の文章は半分にできる」と仕込まれた編集者のノウハウを、全3回にわたって紹介する。「電池」と書くより「モバイルバッテリー」と書いた方がSEO的に有利では?といった疑問にもしっかり応える、Webライティングの実践講座にするつもりだ。

〜Web Professional編集長から学ぶ〜
Webライティング実践講座

日時
2012年07月11日(水) 25日(水) 8月8日(水) 13:00〜17:30
主催
株式会社ロフトワーク
会場
loftwork 10F
定員
10名
参加費
2万1000円×3回(1名あたり)
対象
  • Webで必要とされるライティングスキルを実践的に学びたい方
  • 読まれるWebコンテンツを制作・発注したい方
  • 添削を通して、短期間でライティングスキルを向上させたい方


※詳細・申込みは、ロフトワークのセミナー案内ページから。

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