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古き良きパソコン時代の終わり? Surfaceの戦略を分析する

2012年06月19日 19時42分更新

文● 西田宗千佳

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PCベンダーにもたらす「困惑」

「Surfaceは、デザインにしろ機能にしろ、本気で広く売る気満々に見える。これで既存パートナーと競合しないはずはない」

 今、パソコンは売れていないわけではない。だが、コンシューマーにとっての心理的重要度は間違いなく落ちており、マイクロソフトにとっては由々しき事態といえる。Windows Phoneも思ったような成功は描けていない。Windows 8とWindows RTは、状況に喝を入れるために重要なプロダクトであるのは間違いない。

 だが、だからといって「自社ブランド販売」に踏み切るとは……。聞ける範囲で当たってみたが、現状のPCベンダーで、このことを「以前から知っていた」という人はいない。筆者の場合は、日本メーカー関係者とのパイプが中心だが、彼らから聞かれたのは「困惑」の言葉ばかりだった。

 OSを作るメーカーが大量生産するなら、もう中途半端な製品は全部そちらに巻き取られ、売れなくなってしまう可能性が高いからだ。「半端な製品なんていらないだろう」と言うなかれ。その数の多さがバリエーションの豊かさにつながり、PC市場の隆盛を支えていたのだ。少なくとも、今までは。

 マイクロソフトは当然だが、「既存の水辺分業型ビジネスも続ける」とコメントしている。だが、本当にそんな世の中は続くのだろうか? それが、今回の発表でPCメーカーが感じた「困惑」だ。

 グーグルも、自社ブランドでAndroidが動くハードを売っている。だがそれらとSurfaceは、似ているようで異なる。グーグルはOSを無料で提供している。また、グーグルの売るデバイスは基本的に「開発者向け機材」に近く、一般消費者に大量に売れているものではない。グーグルとしては大ヒットさせたい意志はあったようだが、差別化要因の少ない彼らのハードは、一般消費者にとってそう魅力的ではなかったからだ。だがSurfaceは、デザインにしろ機能にしろ、本気で広く売る気満々に見える。これで既存パートナーと競合しないはずはない。

タブレットとプロダクティビティーツール
同じOSで両立させるのは正しいのか?

 とはいうものの、マイクロソフトの視点に立てば、こういうハードを売るのは「避け得ない決断」だったのかもしれない。振り返ってみれば、PCプラットフォームにおいてマイクロソフトは、何度も「新提案」をしてきた。タブレットPCやMedia Centerなどが代表例だろう。その時はパートナーと組んで、彼らの考える「新しい世界」を描こうとしてきた。

 だが、それらはことごとく失敗した。一般に広く普及させるには、商品の魅力が足りなかったからだ。マイクロソフトが「こうしたい」と思っても、ハードメーカーとしてもビジネス上や技術上、譲れない線がある。そのアンマッチは商品性向上にはマイナスだったはずだ。

 今回マイクロソフトは、Windows 8とWindows RTの魅力を最大化したかったはずだ。そうなると、自己の責任で「最高の製品」を作りたくなった、と考えるのも無理からぬところはある。

 ただそこで問題になるのは、「水平分業」の割合を低くすることが、マイクロソフトとPC業界にとってプラスなのかどうか、ということだ。Windows 8を「Metro環境のためのもの」と考えれば、確かにこれまでのPC業界との関係はそう大切ではなくなってくる。Windows RTのSurfaceは、そういう意味で納得できる。

 だが、Windows PCに求められるのは「タブレット的な用途」だけではない。これまでのWindowsが担ってきたプロダクティビティーツールとしての価値があるし、そこについては、多様であることの意味はまだまだ大きい。その棲み分けをどうするのか? そもそも、タブレット的要素とプロダクティビティツールとしての要素を、「ひとつのOS」にする方策は正しかったのか? このあたりの分析が、Surfaceの価値を決めるのではないかという印象を持っている。

 他方、単純にユーザーの目で見ると、Windows RT版のSurfaceはそれなりに魅力的だ。Officeソフトがフルに動き、軽量かつ長時間バッテリーで動作する端末を求めている人は多いはず。それをマイクロソフト自身が出すのだとすれば、安心して買える商品になる可能性は高い。PCベンダーの製品がその魅力にあらがうには、ハードの実装技術やパーツスペックの面で、Surfaceよりも図抜けた製品を用意する必要が出てくる。これはなかなか難しい。もしくは、彼らが攻めない「小さい」端末で勝負するか……。

 どちらにしろ、PCベンダーに残された選択肢は多くない。

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