ファイルメーカー株式会社が5日に発表した「FileMaker 12」シリーズ。今回のバージョンアップでは、テンプレート拡張やレイアウト支援ツールの機能強化により、グラフ作成やかゆいところに手が届くデザイン機能を提供する。
また、タブレットやスマートフォンに適した画面サイズでレイアウトできる“画面ステンシル”の機能や、マルチメディアファイルの取り扱い、さらには、有償提供だったとiPhone/iPad用アプリ「FileMaker Go」を最新版の「FileMaker Go 12」から無償化するなど、スマートデバイス向けの機能拡張にも積極的に取り組んでいる。
FileMakerはデータベースソフトではあるが、iOS向けにシンプルだが迅速なアプリケーションを開発したいという層にも注目を浴びているという現状がある。日本法人社長のBill Epling(ビル エプリング)氏に訊いた。
FileMaker Go 12無償化のインパクトは?
── 新製品発表がありましたが、日本市場へのアプローチをどう考えていますか? 一連の製品の中では特にiOS向けのFileMaker Go 12の無償化に注目しています。
「無償化の一番の理由はビジネス環境での展開を容易にしたかったためです。FileMaker Goは従来版でも、ユーザーの生産性を向上させるという意味で、非常に優れていたと自負しています。しかし、先週、米国のある大きな病院で発表があったように、無償化したことで、院内での展開をiOS化するための障壁が完全に取り除かれたという声もあります。さらに新しく試してみたいというユーザーにとってもメリットがあると思います」
── どの程度の規模感で、どのような活用がなされているのでしょうか?
「シート数は数千、応用方法も多岐にわたっているため、特定の利用シーンを提示しにくいのですが、iPadの人気は医療分野では絶大ですし、無償化によってその人気が加速していくでしょう。バーコードとiPadを使った患者の管理は米国でも進んでおり、正しい患者に正しい薬を与え、人的なエラーを減らすことに貢献しています。先日の国際モダンホスピタルショーで紹介されたように、国内でも処方箋を間違わないようにするための事例が出てきています」
── 病院はひとつ大きな可能性のある分野だと思いますが、個人的には店頭に置くカタログとしても有益ではないかと考えています。FileMaker 12ではマルチメディアファイルの取り扱いが大きく進化しましたから。
「われわれは特定の業態ではなく、ワークグループ単位での訴求、特に中堅・中小企業や大手企業の部門単位での導入を考えています。そのためのツールでカスタマイズして、それぞれの目的にあったものを作り出せるという点がポイントですから、この分野だけに有効であるという形にはなりません。とはいえ、医療機関、小売業のカタログ、高等教育機関、政府、研究開発、航空業界など目立った成果が挙げられている業種もあります。世界で最も伸びているiPadにおけるリーディングメーカーですから、結果的には広い業種を網羅できていると思います」
認知が進むファイルメーカーのブランド
── 先日の日経新聞の記事では、大学卒業生の就職人気企業100社のうち91社に入ったという情報がありましたが。
「米国ではフォーチュン100社のうち70社、全米のトップ50の大学全校がFileMakerのユーザーです。全米のもっとも広い250の学区も全学区FileMakerのユーザーです。そしてそれよりもさらに大きいのがSMBと呼ばれる中小・中堅企業となります。まさにFileMaker Everywhereなのです。
競合優位性という観点では、iOSの分野で1位、Mac OSでも1位、Windowsでも2位。これに加えてウェブを経由したデータ参照が可能になるので、十分な可用性も持っています。マルチプラットフォームという観点では、スマートフォンやタブレットも当たり前になってくる中、IT部門がWindowsを強制するような世界ではなくなってきています。SMBや高等教育機関は私たちだけでなく、アップルも強い分野ですが、日本はもちろん全世界で、アップルとファイルメーカーは緊密な協力関係を築いています」
(ファイルメーカーは4月10日にApple Store GINZAでトレーニングを開催。ビジネスアプリを簡単に開発できるといった特徴を示した。会場は大盛況だったという。また4月27日にはアップルジャパンの本社会議室でセミナーを開催。さらに5月9日~11日のスマートフォン&モバイル EXPOでは、FBA12社がソリューションを紹介する)
データは使われてこそ意味がある
── 先日、プレゼンテーションを変えるという予感を感じたのですが、リアルタイムにデータを取り出し、それを反映したプレゼンをしたり、新しいビジネス活用を提案していくといったことはないのでしょうか?
「リッチな表現はひとつの側面です。iPadやiPhoneを含むさまざまなプラットフォームに対応できる点に加え、共有しているすべてのコンテンツ(Word、PDF、動画など)をひとつの場所に集約して共有・利用できる点がスマートさや新しさ、ユーザーへのインスパイヤにつながるのではないかと考えています。
データを美しく表現することには意味があります。もっと広い意味で、持っているデータの見せ方そのものが変わるということです。データベース系のツールは、使いやすくなければならない、レスポンスが速く、美しくないといけないということです」
── データは使って初めて意味があるというメッセージですね。
「例えばビジュアルに訴えるグラフやチャートは、データの持つ意味を本質的に訴えるようになると思います」
試しながら進められるiOSアプリ開発
── 画面ステンシルを始めとした新しい機能は、ビジネスを効率化するだけでなく楽しくする可能性も秘めていると思います。カタログという話もありましたが、小さな枠の中で、PDFや動画が直接見られるという点は大きな驚きでした。
「訴えたいポイントとしては、第1にとにかく簡単に美しいものが作れるツールであるということ、第2にドラッグ&ドロップ、スクリーニングなど外部ファイルへのアクセスが早いという点です。そして何よりもiOSデバイス向けに迅速な展開が可能になる点が今回のポイントになると思っています」
── iOS用のアプリケーションを作りたいが、敷居の高さを感じているユーザーにとってFileMakerのソリューションは魅力的です。データベースではあるのですが、かつてのハイパーカードのように単なるデータベースという枠を超えた、アプリケーションも作れる環境なのではないでしょうか。
「そうです。iPhoneやiPadを使ったビジネスをしたい。しかしどこから始めていいかわからないという悩みを抱えているユーザーは少なくないと思います。仮に十分な予算がなく、ネイティブでコードを書くことにも難しさを感じているのなら、ぜひ試して欲しい製品です。プロトタイプ(Prototypeから利用可能(Deploy)になるまでの速度が非常に速いため、台頭しているOSに対して何かアプローチしなければならないという課題を解決してくれるでしょう。
また従来のウォーターフォール志向の開発ではなく、試しながらいろいろ拡張していけるという点も大きなメリットといえます。そのためにファイルメーカーはエコシステムを作り、トレーニングを提供し、開発者に役立つためのリソースを積極的に提供していきたいと考えています」
── ありがとうございました。
(2012年4月11日、ファイルメーカー株式会社にて)