難航する20nmプロセスへの移行
Sea Islandsで採用するプロセスはどれだ?
ついでに2013年の話にも触れておこう。2月に開かれた「Financial Analyst Day」では、公式に「Sea Island」のコード名が発表された。公開されている内容は少なく、GCN 2.0と呼ばれる改良型のマイクロアーキテクチャーを搭載し、28nmプロセスで製造を予定している。
もっとも、この28nmプロセスそのものに、実は「?」マークがついている。まずプロセスの話をすると、TSMCの28nmプロセスは、歩留まりの点ではまずまずのレベルになってきているが、スループット、つまり量産できる枚数がまだかなりきつい状態である。一方でGLOBALFOUNDRIESの28nmプロセスの立ち上がりは芳しくない。結局ほとんどの28nmプロセスを使いたい主要ファブレスベンダーが、全部TSMCに集中している状況で、これは少なくとも2012年一杯は続きそうだ。
AMDのみならずNVIDIAにもいえることだが、問題なのは28nmプロセスのままでは、そろそろ性能面での頭打ちが見え始めたことだ。端的に言えば、プロセスを微細化して利用できるトランジスター数を増やし、これによってシェーダーの数を増やすというのが、唯一のGPUの性能改善法であることだ。AMDには、NVIDIAがGK104で先に実装した「3D専用と割り切ることで64bit演算のハードウェアを省いて、その分シェーダを増やす」というカードがまだ残されているが、せいぜいその程度。動作周波数の向上は消費電力増大に直結するので、こちらはかなり難しい。あとは巨大なMCMチップを構成することで、見かけ上トランジスターを増やす程度だろうか。
性能面での解決策は、「20nmプロセスを早く」ということになるのだが、TSMCで生産可能になるのは早くて2013年、現実問題としては2014年にずれ込む公算が高い。おまけにTSMCはついに、「20nm世代ではプロセスが1種類になる」とまで言い始めた。ようするに微細化が進みすぎてしまい、用途に応じてトランジスターの構成を作り分けるのが極めて困難になったというか、作り分けてもほとんど変わらなくなってしまったようだ。
こうした状況を受けて、ファウンダリー(半導体製造事業者)とそのファウンダリーを使う半導体ベンダーの両方が、従来のハーフプロセス※1ではなく、もっと細かいステップを踏むことを考慮し始めた。TSMCでは20nmの次にいきなり14nmに移るのではなく、16nmあるいは18nmのプロセスを挟むことを検討していると、公式に発言している。これは何もTSMCだけではなく、UMCやGLOBALFOUNDRIES、SMICといったファウンダリーも同様である。
※1 「ハーフノード」とも言う。元々プロセスには「フルノード」と呼ばれる45nm/32nm/22nm/16nmというものと、ハーフノードと呼ばれる40nm/28nm/20nm/14nmの2種類がある。本来は両方の系列が交互に提供されるはずだったが、最近は諸般の理由によりハーフノードのみを提供する方向になっている。
この問題の主要因は露光装置の問題である。既存の「193nm ArF」(フッ化アルゴン)という光源を使う場合、1層分の露光を2~3回行なわないと、14nm世代での製造が不可能なのだが、これでは露光に必要なマスクのコスト高騰につながるという話だ。このあたりの話は連載134回でのIvy Bridgeの話でも触れている。14nm世代ともなると、マスクの価格は1枚あたり軽く1億円を超えるので、そうでなくても高い初期コストがさらに嵩むことになる。
せめて2回で全部済まそうと思ったら、16nmあたりに留めておくしかないのだが、実は20nmに関してもまだまだトラブルが多く、本当に2013年に量産可能になるとは考えにくいのが現状だ。現状ファウンダリーとしてトップランナーのTSMCですらそうなので、UMCやGLOBALFOUNDRIES、SMICなどはさらに苦戦している。そこで、いきなり20nmではなく、もっと手前の24nmあるいは22nmという可能性はないかということを模索しているわけだ。
ここでの有力候補は22nmだ。すでにインテルが量産を開始しているほどだから、製造装置メーカーも対応した製造装置をもっている。それならばいきなり20nmにいくよりも、スムーズに移行できるだろうというわけだ。
こうした状況を受けて、AMDやNVIDIAも、20nmの手前で22nmあるいは24nmのプロセスを使うことを検討しているとしている。もし早期に利用できるのならば、AMDはSea Islandsの世代で使うことも選択肢の中に入っているようだ。
もっとも現実問題として、今すぐスタートしたとして2012年内に量産が可能になるほど甘いものではない。下手をすると20nmの方が先に実用になる公算の方が高いだけに、Sea Islandsで22~24nmプロセスを使うという可能性は、非常に少ないと筆者は考えている。こんな話が出てくるというあたり、まだSea Islandsの世代はかなり流動的な状況にあると考えていいだろう。もう少し固まった話が出てくるのは、おそらく2012年第3四半期以降であろうと想像される。
この連載の記事
-
第768回
PC
AIアクセラレーター「Gaudi 3」の性能は前世代の2~4倍 インテル CPUロードマップ -
第767回
PC
Lunar LakeはWindows 12の要件である40TOPSを超えるNPU性能 インテル CPUロードマップ -
第766回
デジタル
Instinct MI300のI/OダイはXCDとCCDのどちらにも搭載できる驚きの構造 AMD GPUロードマップ -
第765回
PC
GB200 Grace Blackwell SuperchipのTDPは1200W NVIDIA GPUロードマップ -
第764回
PC
B100は1ダイあたりの性能がH100を下回るがAI性能はH100の5倍 NVIDIA GPUロードマップ -
第763回
PC
FDD/HDDをつなぐため急速に普及したSASI 消え去ったI/F史 -
第762回
PC
測定器やFDDなどどんな機器も接続できたGPIB 消え去ったI/F史 -
第761回
PC
Intel 14Aの量産は2年遅れの2028年? 半導体生産2位を目指すインテル インテル CPUロードマップ -
第760回
PC
14nmを再構築したIntel 12が2027年に登場すればおもしろいことになりそう インテル CPUロードマップ -
第759回
PC
プリンター接続で業界標準になったセントロニクスI/F 消え去ったI/F史 -
第758回
PC
モデムをつなぐのに必要だったRS-232-CというシリアルI/F 消え去ったI/F史 - この連載の一覧へ