120%の情熱が必要になる
セオリーにあてはめない作品づくり
―― 前回、「『感動』はスタッフの情熱から作られる」というお話もありましたが、プロデューサーとして、「感動」をどのように作っていますか。
丸山 作品づくりの主役は間違いなくクリエイターさんや制作スタッフさんで、自分自身は意見やアイデアを申し上げたとしても、実際に面白い脚本を書くこともできないし、うまい画を描くこともできないので、人の気持ちを動かすことができたとしたら、そうした「熱源」となった方々のおかげです。
ただ、アニメはスタッフも関係者も含め、とにかく関わっている人の数も多く、ほんとにチームの作業ですので、スタッフやそしてその周りを取り巻く関係各社の人々の熱が高まることを常に考えるのは大切なことだと感じます。
アニメを制作していくには大変長い時間がかかりますし、その長い年月の中で、人と人の関係で成り立っている過程では、軋轢が生まれるとき、ビジネス上の障害が発生するとき、誰かのテンションが落ちてしまうときなどが必ずあります。中にはそうした問題から、途中で潰れてしまう企画もあったりもします。
―― そうしたときに、最終的に企画のGOサインを出す判断材料は何でしょうか。
丸山 抽象的な言い方になりますが、こうした人の手によるモノ作りにおいては、自分も含め属する者それぞれが、各々の担務でどれだけ「何を選ぶか悩み抜く」「こだわりのために粘る」「体力と時間を削る」ことができるか。そしてその3つをやろうとする環境や雰囲気を作れるかが肝なんです。それが、作品の全体の熱量につながっていくのだと思います。
その中で我々が一緒にやらせてくださいとGOを出すときは、会社の代表として来てくださる相手の方の思いとか、その方から聞くスタッフさんの熱意とか、その会社の温度とか、そういう形には見えにくいところで判断するしかないんですよ。
ですから、たとえばネームバリューや実績があるメンバーが集っていても、たまたまその時期にモチベーションが下がっていたり、作品愛が足りていない場合はとても危険なので、企画選定の際には120%の情熱を注ぐ空気かどうかというのを、判断の際にとても重要視しています。特にオリジナル作品の場合は、ほとんど何もない未知数の状態で判断しなければならないので、最も重要だと考えてます。
―― 作品愛というのは、その作品の一番良い部分を引き出すとか、好きなポイントがわかっているとか、そういうことですか。
丸山 はい。作品は似たようなジャンルに見えても、それぞれ全く違う個性を持つものなので、制作過程にしても、宣伝過程などにしても、どう育てれば一番魅力的になるかというのは、作品ごとに一つ一つ違うはずです。あまり、これまでの“アニメのセオリー”に当てはめて育てないほうがいいかなと思っているんです。
たとえば、過去の数ある反省の一つなんですけど、ある作品で、監督が「オープニングではダンスをテーマに」というアイデアを出してくれたことがあったんです。当時は踊らせるタイプのOP&EDが他にもたくさんあったし、二番煎じ感もあるから、インパクト的には負けるのではないかと感じて、割と反対していたんですよ。でも監督が「勝算はある」と言われたので、最終的にはわかりましたって乗ったんですよ。フタを開けてみたら、最高に面白いオープニングができあがりまして。
「二番煎じは弱い」というセオリーを気にして、せっかくの発明を潰してしまうところだったと反省しました。クリエイターさんとプロデューサーの間では意見がぶつかることもありますが、クリエイターさんが意見を引っ込めずに「勝算がある」と言ったときは、乗ったほうが良いというケースがほとんどですね。実際に話を考えたり、絵を作っている方々は、本当に身を削ってやっているので、そこに覚悟があるときは、乗ったほうが絶対に面白いものになると感じました。
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