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四本淑三の「ミュージック・ギークス!」 第87回

インストバンド・サンガツが挑む“レシピとしての音楽”

音楽は「クックパッド」になっていく

2012年02月11日 12時00分更新

文● 四本淑三

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コピーしないでよって言っても無理。これは負ける戦いですよ

―― でもサンガツって、そもそも音源をそんなに出していないですよね?

小島 はははは……。いや、そうなんですよ。それもあって。

小泉 こないだのアルバム(5つのコンポジション)は前から5年も開いちゃって。初期の頃は楽曲としてしっかり作ってきたんですが、こないだ出たアルバムはそうじゃない

※ レーベル最終作の「5つのコンポジション」(2010)は“メロディやリズムである風景をイメージさせる”という今までのアプローチではなく、“「音の動きや配置で、ある質感を伝える」曲を作れないか? それも馬鹿みたいにシンプルなやり方で”という新たなコンセプトのもと、アナログテープの一発録りというスタイルで制作された。(HMV - サンガツ特集ページより)

―― かなり抽象的なアプローチに変わっていますよね。

小島 そのアルバムから段々移行してきた結果、盤ではない形態を試したかったんです。僕らがやってきた流れの中で、そうやったほうが面白いんじゃないか。そっちの方が可能性が広がるんじゃないか、ということなんです。

―― ただ作品そのものは音源としてかなり綿密に作られていたと思いますが。

小泉 ガチガチでしたね。音源を出すからには、お金をもらうからには、完成度の高いものを作らなければならないと思ってましたし、良いクオリティーのものを作るためには、著作権が守られて対価を得なくちゃいけないって。だけどふとしたきっかけで、それは違うんじゃないかと、逆の方向に振り切れたんです。

―― その、ふとしたきっかけって何ですか?

小泉 クオリティーも環境によって動く要素だと思うんですね。たとえば中世の絵画の人はバカテクですけど、アメリカの抽象絵画を見た後だと古くさく感じてしまう。そんな風に、クオリティーの概念って、動くと思うんです。ネット時代のクオリティーってそういうことじゃないか、自分の中のクオリティーに対する概念に揺さぶりをかけなければダメなんじゃないか。そう思ったんですね。

芸術のクオリティーは、古代~現代まで時代が変わるにつれて概念や尺度が変化してきたもの。インターネットの出現はその大きな変化の1つではないか、作品のコピーを中心とした近現代のポップカルチャーとは異なる、新しい価値感が生まれているのではないかと、小泉さんは考えている

―― それはいつ頃から?

小泉 ここ1年くらいですね。ゆっくりと心境の変化はあったかもしれないですね。毎週集まって、練習して、レコーディングして、それで音源を作って出したけど、それって有効なのか。果たしてみんなに届いているのか、という事ですね。僕らが1枚目を作ったときは、CDを出すということはすごいことだった。すごく感動もしたし。でも何か段々そういう感じでもなくなってきたんです。

―― そういう感じじゃなくなったのは?

小泉 やっぱりネットとCDや音源という形がそぐわなくなってきた。それが僕の出した結論です。コピーしないでよって言っても、やっぱり無理ですよね。これは負ける戦いですよ。

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