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四本淑三の「ミュージック・ギークス!」 第87回

インストバンド・サンガツが挑む“レシピとしての音楽”

音楽は「クックパッド」になっていく

2012年02月11日 12時00分更新

文● 四本淑三

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自分がこれをやりましたと主張するより面白い

―― その音楽を共有する手法として「レシピ」を提案されているわけですが、これは何なんでしょう?

小泉 音を作るためのルールと言うか、仕組みのようなものですね。例えばこの合図を出したらドラムを叩く、みたいな。

※ 「音楽のレシピ」をイメージした、サンガツの特設サイト「Catch and Throw」。「数列パターンによる試み」「図形パターンによる試み」「合図パターンによる試み」など、レシピとそれに基づくパフォーマンスが掲載されている。レシピは徐々に追加されていく予定。

―― たとえばJohn Zorn Cobra(コブラ)のように、指示に対応するアクションを定義するということですか?

コブラ : 現代音楽家ジョン・ゾーンが発案した即興演奏のためのルール。プロンプターと呼ばれる指揮者が、予め用意されたカードやジェスシャーを示し、奏者に対して演奏を指示する。日本国内ではヒカシューの巻上公一氏が第一人者で、数多くの演奏会を企画しプロンプターを務めている。プロンプターや奏者間の駆け引きが楽しい。

小泉 コブラと違うのは、音楽の人だけじゃなく、他のジャンルの人もこれを使えるところまで持っていきたい、ということなんです。もしくは楽器は何もできないという人でも参加できる、そういう簡単なルールを作りたいと思っていて。その具体的なところはサイトを見てもらうと分かると思います。

小島 同じレシピでも作り手によって、美味い不味いってあると思うんですけど、音楽もちゃんとしたミュージシャンが演ってこそという、即興の醍醐味もある。でも演奏力によって完成度が左右されるところにはいかないようにと思っています。いろんな人達が参加できるような形を作っていきたいんです。

―― もっと分かりやすく言うなら……あの、全然関係ないかもしれませんが、昔「3の倍数だけアホになる」というのがありましたよね?

小泉 あ! 今かなり通じあえたものが。そういうことだよね?

小島 ああ、そうですね。

小泉 あの仕組みが分かっているから面白いし、あの仕組みを公にしているから、4の倍数になったらアホ顔になるみたいな発展もできるわけです。小さいモジュール化されたプログラムみたいにレシピをオープンソースにすることで、OSみたいに発展させられるんじゃないかと思うんです。

―― そこまでルールが単純化できれば、チェルフィッチュ(劇団)の岡田利規さんとか、他ジャンルともセッションできそうですね。

小泉 はい。チェルフィッチュとも、方法のレベルでコラボしようと思っていて。岡田さんがこのルールを作ってもらっても面白いと思いますし。異なる分野とのコラボということを考えると、ひとつひとつの仕組みをオープンにすることって、自分たちが思っていること以上に意味があるんじゃないかと思うんです。

小島 でもまだハードルも高く、分かりにくいので、まずその敷居を下げるということですね。将来的にはレシピの投稿や、それで作ったものを投稿してもらえるようにしたい。

小泉 それをやりたいから「著作権を放棄」したんですね。自分たちが新しい音楽をやっているつもりでも、100年とか200年という時間の流れを考えたら、大きな流れの中の一つでしかない。だったら自分がこれをやりましたと後世に向けて主張するより、全部オープンにして、人が使いやすい形で残したほうが面白い。音源も出すかもしれないけど、あくまで活動の中心はオープンプラットフォームを充実させることなんです。

まずはお手本となる音楽をつくり、“レシピ”のハードルを順々に下げていきたいと話す。近い将来、レシピのお題を使った音楽がWebサイト上にズラッと並ぶことになるかもしれない

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