低コスト製品のはずがコストは高く
性能もVoodooの半分以下
低コスト化のためにいろいろと工夫をしたVoodoo Rushであったが、こうした努力が実を結んだとは、正直言いがたかった。まずSST-96そのものの問題があった。先の図1ではSST-96を点線で囲んで、まるで1チップのように示したが、実はSST-96は2チップ構成だった。PUMAインターフェース(PUMA I/F)を内蔵した「FBI」のチップと、「TREX」のチップの2チップ構成という構造は、SST-1ことVoodoo Graphicsから変わっていない。
その上フレームバッファーとテクスチャメモリーに、それぞれ複数個(4~8個)のEDO DRAMチップを搭載する必要があるから、実はこれだけで普通のグラフィックスカードと同じ大きさを占有してしまうことになる。ここに、さらに2Dグラフィックチップを載せようというのだから、その苦労は半端ではない。結局フレームバッファーやテクスチャメモリーの量を抑えて基板上の面積を開けて、そこに無理やり2Dグラフィックを載せる形になった。中には基板を2枚重ねにして、メモリー容量を確保した製品(Hercules Stingray 128/3D)もあった。こうなると、もう当初の「低価格」という目論見が完全に消えてしまった。
しかも3dfx自身、Voodoo Rushは低価格向けと位置づけた関係で、性能が初代Voodoo Graphicsよりも低かった。主要な要因はフレームバッファーを2Dグラフィックと共用したことによる。2Dの場合、画面リフレッシュのために定期的にフレームバッファーへのアクセスが発生する。状況を悪くしていたのは、3D描画の最中でも2D側の画面リフレッシュを止められないことだった。「3D描画時は2Dを止める」といった細工は、当時のグラフィックスカードではできなかった。この結果として、フレームバッファーへのアクセスの最優先権を持つのは2Dグラフィックの画面リフレッシュ要求で、この合間をぬってFBIから3D描画用のリクエストが処理されるという結果になった。
この仕様は、Voodoo Rushの仕様書にも明確に書かれている。下の画像はVoodoo Rushの仕様書に示された3D描画性能の一覧であるが、上側の表がSST-1(Voodoo Graphics)とSST-96(Voodoo Rush)の性能差をまとめたものだ。
例えばひとつのトライアングルが12ピクセルの場合、Voodoo GraphicsならDirect Modeで99万6000トライアングル/秒(1200万ピクセル/秒)で描画できるのに、Voodoo Rushだと同じ条件で51万1000トライアングル/秒(600万ピクセル/秒)しか描画できない。大きなトライアングル(例えばひとつのトライアングルが511ピクセル)だとそれほど大きな性能差はないが、細かいトライアングルの描画では、ざっくり言ってVoodoo Graphicsの半分程度の性能しか出せていないのがわかるだろう。
加えて言うと、このフレームバッファーやテクスチャメモリーはPCIアドレス空間にマッピングされ、CPUからアクセスできるようになっているのだが、これをアクセスするためには2Dグラフィック側からPUMA経由でアクセスするしかなく、これがまた遅かった。
というのは、先にも書いたとおりPUMA経由でのアクセスには優先順位が設けられていて、以下のような順になっている。
- ①2Dグラフィックからのリフレッシュ用
- ②SST-96のFBIからのアクセス
- ③2Dグラフィックからのアクセス
この場合、PCIバス経由で3D描画に必要なデータ類を書き込む場合でも、PUMAから見ると「2Dグラフィックからのアクセス」としか見えなくなってしまう。2Dからのアクセスでは優先順位が最低になってしまうので、非常に速度が遅くなるという欠点があった。これはPCIインターフェースを2Dグラフィックのみに集約したことによる副作用で、この2つの相乗効果により、Voodoo Rushの3D性能はVoodoo Graphicsの半分「未満」というのが大雑把な性能評価だった。
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