今回は、久々のAMD GPUロードマップである。このところ、先端プロセスの成熟に時間がかかる傾向にあり、おまけにTSMCが32nmプロセスをスキップした関係で40nm世代が長く続いたこともあって、マイナーチェンジ版はちょこちょこ出たりしたものの、基本的な製品ラインナップは比較的長期に渡って変動がない状況が続いていた。
しかし、ようやくTSMCの28nmプロセスにおける本格量産が立ち上がり始めたこともあり、2012年には変化がありそうだ。AMD、NVIDIAの両社とも、2012年には28nmプロセスを使った製品の投入を本格的に開始する予定で、ここでラインナップは大きく変わるものと考えられる。そんなわけで今回はAMDのGPUロードマップを説明したい。
Radeon HD 6000はHD 5000の
マイナーチェンジから始まる
まずは既存の「Radeon HD 6000」シリーズのおさらいから。TSMCの40nmプロセスを使った最初の製品は、2010年10月にリリースされた「Radeon HD 6870」(Barts XT)で、従来の「Radeon HD 5000」シリーズの改善版といった趣のものである。シェーダー数などは若干減らされ、動作周波数やメモリー動作周波数もやや引き下げられたものの、性能の落ち方はそれほど大きくなく、また消費電力はやや下がるなど、ファインチューニングが功を奏したと言える。
ただし、内部構造はRadeon HD 5000シリーズと同じ「VLIW 5」で、実際にはマイナーバージョンアップの範疇である。このRadeon HD 6870から、動作周波数とシェーダー数をやや減らしたのが、同時に発表された「Radeon HD 6850」。これに続き、2011年4月にはさらに動作周波数を落とし、シェーダー数を減らした「Barts LE」こと「Radeon HD 6790」がリリースされる。
このBarts LEの派生型とも言えるのが、2011年5月にリリースされた「Juniper Pro/Juniper LE」の「Radeon HD 6770/6750」である。Juniperの場合、コアの構成はほぼBarts準じており、Radeon HD 6770の動作周波数はむしろ、Radeon HD 6790より高速だったりする。それにも関わらずこれが下位に位置するのは、メモリーバス幅を256bit→128bitに削減しているからだ。これによって「大画面表示時の描画性能は明確に落ちるが、解像度が低めで表現が複雑なケースではそれほど落ちない」という、差別化に好ましい性能差がRadeon HD 6790との間で生まれることになった。
その一方で、より低消費電力/低コスト向けに「Radeon HD 6670」も用意された。こちらはシェーダー数を減らすことで、はっきりとした性能差が生まれている。これをさらに低コスト向けにしたのが、「Radeon HD 6570」である。一番ローエンドの製品は「Radeon HD 6450」だが、構成的にはいまや、「Llano」(AMD A)に内蔵される「Radeon HD 6550D」「Radeon HD 6530D」よりも性能が低い(ほぼ「Zacate」コア内蔵の「Radeon HD 6310」と同等)。ただし専用のビデオメモリーを利用できる分だけ、高解像度時ではLlanoと同等といったあたりが、辛うじてLlanoとの差別化になっている。
ただしAMDは、長期的にはこのジャンルをすべてAPUで代替してゆく予定である。そのため、ここに注力するというわけではないが、短期的にこれらすべてをAPUで代替するのは無理だ。そのため、引き続きこのジャンルをカバーする必要があり、それに対応した製品がこれら、ということになる。

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