郊外型・自社サービス利用ならではの割り切りがキモ
コスト削減の秘密は?石狩データセンター完全ガイド
2011年11月18日 06時00分更新
11月15日、さくらインターネットは石狩データセンターの開所式とともに、関係者に向けた内覧会を行なった。ほぼ通年で利用される外気冷却や高電圧直流(HVDC)給電システムなどの先進的な技術はもちろん、郊外型ならではの「割り切り」を元にした、コスト削減の工夫が随所に盛り込まれている。
モジュール構成で柔軟な増設が可能
今回、石狩データセンターに建設されたのは、1棟あたり500ラックまで対応できる建物2棟分で、開所時は200ラックが設置されていた。地上2階建ての鉄骨造で建設面積は約7000㎡。設計と施工は大成建設が担当した。
まずは2階のサーバールームを見ていこう。開所式の記事で紹介したとおり、サーバールームはモジュール構成になっており、100ラックごと需要に応じて増やせるようになっている。開所時は100ラックのサーバールームが2ゾーン用意されており、ラックやUPSが設置されていた。サーバールームは、床が底上げされておらず、ラックがコンクリートの床に直接打ち付けてある。電気、LANなどすべての配線はラックの上部を通っており、コストも下げられるほか、耐震という面で有利だという。
ラックは河村電器産業製のオリジナルラックを用いているが、実は3つのラックで1セットになっている。顧客ごとのハウジングでは必須となるラック間の間仕切りもなく、部材を共用するため、軽量化や資材の節約につながるというメリットがある。ラックの上部には大型のファンが備え付けられており、サーバーからの排熱はダクトから天井の上へ排気されることになる。柔軟な構成をとれるよう、ラックの列単位でUPSが設置されているのも特徴的といえる。
天井吹き出しと壁吹き出しの2つの方式を採用
次に石狩データセンターの大きな特徴である外気冷却の構造を見ていこう。通常、都市型データセンターで用いられている空調機(エアコン)での冷却は、電気代がかかる。エアコンを使う代わり、外気をサーバールームに取り込んでIT機器を冷却すれば、電力は大幅に下げられるわけだ。こうした外気冷却は、海外のデータセンターでは多くの事例があるが、日本ではなかなか導入が進まなかった。石狩データセンターでは外気冷却の全面採用で、空調コストを4割削減できるとしている。
石狩データセンターでは、外気を防塵・除塩の2つのフィルターを介して、建物内部に取り込み、空調機でサーバールームに送り込んでいる。
冷却方式は、2つのサーバールームで異なっており、部屋の天井から冷気を吹き出す「天井吹き出し方式」と、部屋の横の壁から冷気を吹き出す「壁吹き出し方式」がそれぞれ採用されている。天井吹き出しのサーバールームは天井に排気口、壁吹き出し方式のサーバールームは両側の壁に巨大なファンがそれぞれ用意されている。通年で利用することで、両者のパフォーマンスを検証するとのこと。同じ建物で異なる冷却方式を用いて競わせるのも、石狩データセンターが最新技術の実験場と称される所以といえる。
気になるのは外気冷却において、外気をそのまま取り込んで大丈夫かという点だ。確かに見学したときの外気温度は3℃~7℃となっており、これをそのままサーバールームに送り込むとサーバーにとっては寒すぎる。高温時よりも、むしろ低温時にサーバーを起動した際に故障が多いというデータもあり、冷えていればよいというわけでもない。その点、石狩データセンターでは外気をそのまま取り入れる外気モードに加え、「ミキシングチャンバー」という区画でサーバーの排気と外気を混合させる「混合モード」という動作が可能になっている。混合モードを用いることで、温湿度が最適化されるため、寒すぎる空気がIT機器にダメージを与えることがないわけだ。
なお、外気冷却を使わず、通常の都市型データセンターと同じくエアコンで冷却する熱源運転もサポートされているが、外気温度が30℃を超えるような夏期の一部にしか動作しない見込みとなっている。温度や湿度の状態はラックの3ヶ所に取り付けられたセンサーで常時収集され、監視センターのモニターに表示される。
設計施工を行なった大成建設の担当者に聞いたところ、外気冷却のノウハウや実績は今までもあったものの、ここまで大規模にやったのは大きなチャレンジだったようだ。厳しい条件の中、短期間での引き渡しが実現したのも、設計と施工を並行して行ない、部材調達などの時間のロスが少なかったからだという。
2階にはその他、監視ルーム、キッティングルーム、会議室、休憩室なども用意されており、休憩室では窓からは石狩の広大な風景が見渡せる。ビルだらけの都内のデータセンターでは味わえない風情は石狩ならではだ。
北海道電力から2系統で特高電気を受電
1階には電力会社からの特別高圧電気を受電する設備が設置された特高電気室、各所に配電するための変圧設備などが設置された高圧電気室、夏期向けの冷却装置を設置した熱源機械室などが配置されている。特高電気室で北海道電力から6万6000Vで受電した電力は6600Vに変圧され、さらに高圧電気室で400Vに変圧。サーバルームに送られ、UPSを介して各ラックに給電される。モジュラー型ということで、各棟やサーバールームごとに設備を備えるのが基本だが、特別高圧受電の設備だけは8棟分すべてをここでまかなう。ラックあたりの供給電力は8kVA(最大15kVA)となっている。
停電時に動作する発電機は重油で動作するディーゼル方式のものが採用されている。一棟あたり7台でカバーし、約48時間の給電が可能になっている。電気設備は概してオーソドックスな構成といえる。なお、今回は公開されなかったが、消火設備やアクセスゲートなどのセキュリティ設備も用意されており、データセンターとしての設備は十分兼ね備えているといえるだろう。
コストパフォーマンスと信頼性の両立
このように石狩データセンターでは、長らくデータセンターを運営してきた同社の英知とノウハウを結集した新しい取り組みがあちらこちらに見られる。その目的は「日本のITコストを世界標準へ押し下げる」というスローガンに現れたコストパフォーマンスの追求だ。
外気冷却自体も導入を検討中というHVDC(高電圧直流)の実証実験も、あくまで省エネの先にあるコストの削減が目的だし、ラックやサーバールームの部材の見直しも、資材や部品点数をとにかく少なくするための試みである。おそらくサーバーをはじめとしたIT機器に関しても、大量調達の代わりにコスト面でタフな条件をベンダーに突きつけているに違いない。さくらインターネット側にとってみれば、おまけのように太陽光発電パネルを貼ったり、無理に全面LED照明化(石狩でも一部導入されているが……)したり、フェンスに緑化を行なうといったコスト効果の見込めないエコ施策は意味がないわけだ。
また、コスト削減のための「割り切り」もいくつか見られる。たとえば、建物自体は耐震構造だが、最新の都市型データセンターで多い免震構造は採用していない。監視カメラの設置を各部屋の出入口や通路に絞っていたり、サーバーの出入り口が二重扉になっていないなどの点も、オーバースペックにならない割り切りといえる。外気冷却の効果が得られない夏期の保険として導入しているターボ冷凍機などの設備も、通年での使用頻度があまりにも少なかったら、躊躇なく取り去るだろう。こうした割り切りは顧客にスペースを提供するハウジングをメインにするデータセンターではなかなか難しい。ホスティングやVPS、そしてクラウドなど自社サービスを前提とした郊外型データセンターであるが故、こうした決断ができ、大きなコスト削減につなげられるというわけだ。
一方で、発表会で田中氏が強調したように「安かろう悪かろう」ではない信頼性も石狩データセンターのもう1つの側面だ。東京から遠く離れた石狩という場所で一番不安なネットワークに関しては、きちんと二重化されているほか、電力系の設備に関してもオーソドックスな構成になっている。信頼性とコストパフォーマンスを両立するための取捨選択が、実に練り上げられたデータセンターといえる。
取材を行なってやや意外だったのは、今後作られる3つめのサーバールーム、3棟目の建物が現在と同じではない可能性が高いという点だ。データセンターに限らず、一般論として同じモノをいくつも作る場合は量産効果を求めるもの。同じ仕様、同じ機器や資材を用いることで、仕様を固めてしまうことが多い。これに対して、さくらインターネットはつねに最新の技術を取り入れ、コスト競争に打ち克つ姿勢を見せている。
実際、2009年に増設した大阪堂島データセンターでは、ラック列間を区画する前後列アイルキャッピングを導入していたが、2年後にオープンした石狩データセンターではすでにアイルキャッピングではなく、外気冷却をサーバールーム単位で行なう方式を取り入れているのだ。1つの技術に拘泥しないこのアグレッシブな姿勢は、機器や資材を調達するベンダーにも緊張を与え、各ベンダーに技術とコストで競わせるという、さくらインターネットにとって理想的なサイクルを生んでいる。最新技術の草刈り場として、今後も成長を止めないのが、石狩データセンターのもう1つの本質といえよう。
さて、こうした最新技術のうち、外気冷却と共に電力コスト削減の切り札と期待されるHVDC(高電圧直流)の実証実験については、また後日レポートする。
初出時、動作モードの表記や監視カメラの設置場所に関して一部誤った表記がありましたので、訂正させていただきます。本文は訂正済みです。(2011年11月24日)

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