StrongARMを独自に拡張するインテル
PDA向けに普及
特許訴訟の結果としてではあるが、インテルはStrongARMの資産一式を手に入れることになった。ただしDECとARMが締結していた契約にインテルは含まれないので、1998年に改めてインテルはARMとの間でライセンス契約を結び(関連リンク)、晴れてStrongARMの製造と販売、恐らく改良も可能になったと思われる。
ただ残念ながら、DECでStrongARMの開発に携わったエンジニアの大半は、インテルに移籍しなかった。その意味では、技術の継承がうまくいったとは言いがたい。
だがそこでStrongARMを捨てずに、さらに投資を増やすあたりがインテルである。インテルはこのStrongARMの後継製品を、自社で新規開発することを決める。それが、2000年8月のIDF Fall 2000で発表された「XScale」であった。
XScaleは、改めてARMからARM v5のアーキテクチャーライセンスを受けたうえで、これを元に独自で実装したものだ。通常のプロセッサーライセンスの場合、ARMからCPUコアそのもののIPを受け取り、これを自社あるいはファウンダリ(半導体製造事業者)で製造する。この場合、CPUコアそのものに手を入れることはできないが、アーキテクチャーライセンスの場合は命令セットさえ互換性を保てば、CPUコアの実装は自由であるし、命令を拡張することもできる。実際インテルは「Wireless MMX」なる名称で、x86のMMX/SSEともやや異なる独自SIMD命令を、後のXScaleに追加している。
このXScaleの最初の製品が、2002年に発表された「PXA250」と「PXA210」である。これは旧来のStrongARM系列の製品を使っていたPDAなどに向けた、アプリケーションプロセッサーの系列である。
このPXA250/210は、米ヒューレット・パッカードがリリースした「iPAQ」シリーズ※1のPDAなどで使われるなど、それなりに普及した。PXA250は180μmプロセスで、200/300/400MHzで動作するPDAなど向けのハイエンドアプリケーションプロセッサーである。
※1 DECを1998年に買収した旧COMPAQを、さらにHPが2001年に買収した。
一方のPXA210は、携帯電話などに向けたローエンドプロセッサーである。当時は携帯電話がベースバンドプロセッサーに加えて、アプリケーションプロセッサーを搭載し始めた時期で、ここに向けた需要を期待したわけだ。だがPDA向けのPXA250はともかく、PXA210の売れ行きはさっぱりであった。
このPXA250は、低電圧化を施した「PXA255」へと進化。さらに内部にフラッシュメモリーを追加した、第2世代の「PXA260」ファミリーも同時期に登場する。
さらに2004年には、動作周波数を最大624MHzにまで上げた「PXA270」シリーズが登場する。こちらは第3世代という扱いであり、プロセスを90nmに微細化したほかに、「SpeedStepテクノロジー」の導入や、先ほど紹介したWireless MMXなどの機能拡張も施され、こちらもそれなりに多くのPDA製品に採用された。

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