CPU黒歴史の第4回は、インテルのもうひとつのRISC CPU「i960」を取り上げたい。もっともこういう言い方をすると、「じゃあXScaleは?」というツッコミが入りそうだが、XScaleはまた別という扱いとした。XScaleにもいろいろな話があるのだが、その前に取り上げるべき黒歴史がまだまだあるので、そちらはもうちょっと後にしたい。
シーメンスとの共同開発で始まったi960
i960は連載115回で取り上げた「i432」の、間接的な後継製品である。元々インテルは1982年に、独シーメンス社と共同で「Gemini」という名前の開発プロジェクトを開始した。このプロジェクトはその後「BiiN」という名称になるが、インテルからはかつてi432の開発に携わったメンバーが主に参加していたため、その設計に影響を与えることになった。設計に影響とはいえ、i432の低性能の要因は注意深く排除された。
このBiiNを構成するために、インテルが新たに設計したのが「Intel i960」(i960)である。1985年にチップはテープアウト(設計完了)、1986年には製品が完成するが、困った事にBiiNのプロジェクトそのものがまったく順調に進まなかった。
このプロジェクトでは、例えば「発電所の管理」といった用途向けに、フォールトトレランス性を持ったマルチプロセッサーシステムを開発することを目的とした。問題は、「具体的に顧客がいたわけではない」ことで、もちろん開発と並行して営業は行なわれたものの、ずるずると開発が伸びることにもなった。
またシーメンス側の組織変更もあったので、最終的にはプロジェクトそのものがご破算に。インテルの手元には、完成したものの使われずに終わったi960チップのみが残されることになった。
このi960のアーキテクチャーの指揮を執っていたのが、IBMから移籍してきたグレンフォード・メイヤーズ(Glenford Myers)博士である。BiiNプロジェクトの破綻後、メイヤーズ博士はi960を、当時上級副社長だったデイブ・ハウス(Dave House)氏とアルバート・ユー(Albert Yu)氏に「80286/80386」の後継製品として提案した。
しかし、この時期にはすでに「Pentium」こと「P5」と、「Pentium Pro」こと「P6」の開発がスタートしていた。メイヤーズ博士はこれらに続く「P7」として提案したものの、要求は受け入れられなかった。
その代わりといっては何だが、i960を組み込み向けシステム用として活路を見出すことには成功して、製品ラインナップを展開することになった。
i860よりはまともになったi960の構造
技術的な観点で言えば、内部構造は前回取り上げた「i860」に比べると、はるかに真っ当になっている。まず整数演算に関しては、最大3命令を同時実行可能なスーパースカラーを実装している。といっても、「ALU」(整数演算)「Multiply/Divide」(乗除算)「Memory」の3つの実行ユニットがあって、これらを同時に実行できる(つまり最大で同時3命令実行)というものだ。
デコーダーは2サイクルあたり4命令を取り込んで解釈可能となっており、インオーダー型ながら十分な性能を持っていた。また、当時のRISCはオンチップキャッシュメモリーを搭載していない製品がほとんどだったが、i960はオンチップで命令キャッシュを搭載していた。
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