お色気モード、ユーザー参加モードも
安田さんに言わせれば、公開している「みんなのフィッシング」はあくまでβ版で、基本的なゲームの“土台”でしかない。現在、アップデートの形で次々に新機能を追加している。
8月にはまさかの「お色気機能」も追加されている。魚の形のカーソルを操作して、女の子のキャラクターを水着姿にしていくミニゲーム「ドキドキ水着パニック」だ。もはや釣りでもRPGでもないが、平安京エイリアン的で楽しそうだ。大企業では100%実現できそうにない、自由すぎる設定が輝いている。
その自由さは、ゲームをプレイしてくれるユーザーたちとの交流にもあらわれている。安田さんは公式サイトにつくった掲示板で、プレイヤーたちとの会話を欠かさない。それは「ソーシャルネットワークを活用し、ユーザーを企業側の味方につけることにより、バイラルマーケティング効果が云々」といったPowerPoint的に無味乾燥な“事業戦略”ではない。そうではなく、安田さんはただ純粋にその状態を楽しんでいる。
「プレイヤーといっしょに、おなじゲームを作っていく。そして、いっしょに盛りあがっていく。それって“ライブ”ですよね。そんな感覚、そんな場所を作りたいんです」
プレイヤーと開発者が“同じ高さ”にいる間柄。それは安田さんにとって、プログラマーとしての原体験にも重なる記憶でもある。いまから20余年前、安田さんはプレイヤーとプログラマーを渡り歩き、その往復そのものを楽しんでいた。あの時代はみんなが同じところにいた。みんなで同じスタートラインに立ち、1つの時代に参加しているような気がした。あの興奮があったから、自分はゲーム業界に入ったのではなかったか。
マップを自分で追加していく、敵をデザインできるようにする。そういったアイデアに、「やりたい……!」と安田さんは目を輝かせる。もう一度、プレイヤーと1つになれるゲームを作りたい。あの楽しさを、もっとたくさんのプレイヤーと共有したい。開発にかけられる時間に限りはあるが、やりたいことならいくらでも思いつく。
安田さんにとって、新しい人生の夢がスタートしたのである。
「たいして儲からないと思いますよ」と安田さんはあっさり言う。夢にしては現実的だ。だが、そんなことは構わない。やりたいことができている、自分の作りたいものを、ユーザーに届けられているという、いまの状況そのものが安田さんにとっては“成功”なのだ。
「自分の夢や、やりたいことを実現するためには、才能なんて少しだけあればいいわけですよ。懸命に努力さえできれば、実現できるということを証明したい」
安田さんはそう話す。とても楽しそうな笑顔だった。
……いやー、やっぱりこれ釣りじゃないのかなあ。
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みんなのフィッシングマトリ