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「みんなのフィッシング」ひとりで開発、謎の“安田さん”に会いにゆく

まさに“釣り師”!? 業界の穴場ねらう、四畳半のゲーム会社

2011年09月09日 12時00分更新

文● 盛田諒/ASCII.jp編集部

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アスキーが変えていた安田さんの人生

 安田さんがプログラマーへの道を志したのは1980年代、20代中盤のことだ。

 発売されたばかりの8ビットパソコン、MSXを購入したのがはじまりだった。パソコンでやることといえば、通信かゲームのどちらか。それは現在もほとんど同じだろう。だが、当時はそこに加えて“ゲームをつくる”という第3の選択肢があった。もちろん今のパソコンでもプログラムは組める。やってできないことはない。しかし、コンピューターの進化とともにプログラム言語は複雑化してしまった。「誰もが基本的なコードを書いて、基本的な画質でイラストを描き、クオリティよりやったもん勝ち」という、黎明期特有の興奮はない。あえて言うなら、Webサービスがそれにあたるかもしれないが。

初代MSXとアスキースティックの組み合わせ

 そんな安田さんが開発したのが、推理アドベンチャー「十和田湖連続殺人事件」だ。

 タイトルからなんとなく想像はつくが、「オホーツクに消ゆ」に激しく影響を受けたという安田さん。使ったのは最も基本的なBASIC言語だ。「10 LINE(0,0) - (1279,790),4」のような“LINE文”という文字列でイラストも描いた。思えば、ものすごい手づくり感である。そうしてオール手作りの「十和田湖連続殺人事件」は完成し、安田さんはそれを雑誌に投稿することにした。当時アスキーが発行していたゲーム雑誌「月刊ログイン」に、読者投稿によるゲームコンテストがあったのである。

 結果、安田さんのゲームは“企画賞”にノミネートされた。連絡を受けた安田さんはもちろん大喜びしたが、ログイン本誌への掲載は残念ながら見送られた。肩を落としていた安田さんに、数週間後、「月刊アスキー」の編集者から連絡が来る。「年刊AhSKI!」(ア・スキー)という別冊版に、ついにゲームの画面写真が掲載されることになったのである。

 「当時は別の仕事をしていたんですが、その『ア・スキー』を持ってゲーム会社の面接に行ったんです。ぼくがこの業界に入っていくきっかけはアスキーさんだったんですよ」

 安田さんはそう振り返り、メガネの奥でうっとりしたような目をした。当サイトにバナー広告の出稿を考えたのも、当時から“パソコン関係といえばアスキー”というイメージを持っていたからだと、非常にありがたい、愛あるお言葉もいただけた。老舗の雑誌屋が愛されるとはそういうことなのだな……と、記者もしばし感懐にふける。


Windowsアプリは“ニッチ”になる

 だが、と記者は気をとりなおす。当時と現在とではやはり話がちがうではないか。

 いまWindows用のゲームをたった1人で“手づくりする”のは異様なほどに苦労するはずだ。安田さんは今回、ゲーム開発の本当にすべてを1人で担当している。CGを描くのも、曲を作るのも、すべて安田さんの仕事だ。経営者の経験があるといっても、営業、販売、広報、Webページ制作までやるというのはさすがに経験がない。それでも誰かに頼ることなく1人で進めたのは、それが自分の力を確認するのにいちばんの近道と考えたからだ。

 やってみたい、自分を確かめたい。安田さんはその熱にとりつかれていたのである。

ゲームの設定も自分。手書きされたA4コピー用紙が重なる

 やだちょっとかっこいいと、記者は安田さんに男惚れしそうになる。しかし、現在ゲーム業界の中心になっているのは、スマートフォン用のアプリや、Facebookやmixiで遊べるWebアプリである。そこで内容ともに“変化球”ともいえるWindows用ソフトを開発するのは冒険だ。ただゲームを作ってみたいということなら、ただの趣味として開発してもよかったはずだ。それをあえて事業にするのには、ビジネス的なねらいがあるのだろう。

 「それは、空洞化したニッチをねらうためなんです」と安田さんは答えた。あえてゲーム業界やパソコン業界の逆を行くのが面白いというのである。

 「小さな市場と感じるかもしれませんが、Windowsパソコンの普及率は十分高いわけでしょう。だとすれば、そこを“新しい市場”と位置づけることもできると思うんです」

 言われてみれば確かにそうなのかもしれない。時代はクラウド化している。ローカル環境かつオフライン環境で動かすソフト自体が、今やニッチになりはじめている。爆発的にヒットする、ゲームは1本でも当てれば大儲けできる。そんな夢はもはや見られないかもしれないが、“Windows用のゲーム”に親しみのある昔からのユーザーはそこにまだまだいるわけだから。

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