メディア産業を発展させる「電波埋蔵金」
変化の激しいメディア業界で、半世紀以上も倒産も合併もなしに地上波テレビ局が続いてきたのは驚異的だ。しかし今後は、在京キー局が地方局に払う「電波料」が減っているため、地方局の経営が苦しくなり、業界の再編が始まるだろう。問題は古い産業が滅びることではなく、新しい産業が生まれないことだ。
その最大の原因は、日本民間放送連盟の多数派を地方民放が占めていることだ。地上波局130社のうち、地方民放が100社以上を占めているため、彼らの意向が民放連の意向となり、それが放送業界の意向になる。このため、地方民放と競合するケーブルテレビや通信衛星などの新しいメディアを徹底的に妨害する放送行政が続いてきた。
特に大きな弊害をもたらしたのは、著作権法を改正して、地上波放送のIP再送信(インターネットによる放送)を地方民放のエリア内に限定したことだ。このため、NTTの「フレッツ光」などのサービスは、インターネットをわざわざ県境のルータで止め、エリアごとにルーティングする莫大な浪費を強いられている。おまけに「まねきTV」のような録画配信も著作権法違反とされたため、日本ではインターネットで番組を配信する「スマートTV」は絶望的だ。
しかし若者のテレビ離れは進んでおり、メインのメディアは携帯端末になっている。今後は生活の中でテレビ画面の比重が下がり、映像メディアの「個人化」が進むだろう。放送業界の制約を受けないスマートフォンやタブレット端末を使ったビデオ配信が増えており、向こう10年ぐらいを考えれば、テレビが産業として崩壊する日が来るだろう。高齢者だけが見ていても、広告媒体としての価値は低いからだ。
このようにテレビが電波利権や著作権で新しい産業を押さえ込んでいる状況は、欧米諸国でも同じだが、日本では行政がそれを是正しようとせず、むしろ既得権を保護しているのが特徴だ。この原因は、放送局と系列関係にある新聞社が、こうした実態を報道しないからだ。民主党政権も、政権交代の直後は電波利権に手をつけようとしたが、メディアの強い反発にあって挫折してしまった。
しかし逆に考えれば、電波の世界には、今の携帯電話の使っている周波数の合計に相当する大きな帯域と、著作権処理ができなくて死蔵された膨大なコンテンツという「埋蔵金」があることになる。周波数の取引によって彼らの帯域を新しい企業が買うなどの政策を取れば、この分野で日本が成長するポテンシャルは大きい。政治が指導力さえ発揮すれば、テレビの終わりは新しいメディアの始まりになるチャンスなのである。
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