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アップルはPaaSを目指すか? — 開発者が見た「WWDC」講演

2011年07月06日 22時30分更新

文● 千種菊理

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じわじわと観客の反応を引き出した「iOS 5」

 発表者がスコット・フォースタル(Scott Forstall)氏に変わり、続けて「iOS 5」の発表が行なわれた。iOS 5については1500の新たなAPIの追加と200もの新機能の追加が予告され、Lionと同じく10個の代表的な新機能が説明された。

Notification Center(通知センター)

 Notification(通知)は、現在画面に表示されていないアプリがパネルを表示したり、音を鳴らしたり、あるいはアイコンにバッジ(数字のマークなど)を付けたりなど、ユーザーに注意を促す機能だ。SMSやメールの着信、予定の通知などで使われている。

 しかし、この通知表示が画面に溜まってわずらわしくなったり、ゲームなどをしている最中に画面の中央に表示されてしまい、うっとうしくなることがある。

 そこで、このNotification機能に大きく2つの改善が加えられた。1つは、通知を画面中央ではなく上端に表示してフォーカスを奪わないようにしたこと、もう1つは画面上端から引きずり下ろして、通知だけの「Notification Center」の画面に切り替えられるようにしたことだ。

「Notification Center」(通知センター)。画面中央ではなく上端に表示してフォーカスを奪わないようになったほか、通知だけをまとめた画面に切り替えられるようにした

 従来のパネルによる通知が上端におとなしく表示されることで、ゲームやSMSの返答などに集中している時でも邪魔にならなくなる。また多くの通知が溜まった場合でも、Notification Centerでアプリごとに分類されて分かりやすく表示されるようになった。

NewsStand

 iBooksが電子書籍の販売であるのに対して、「NewsStand」は電子新聞/雑誌のような定期的な刊行物向けの販売をになう。ユーザーがNewsStandで定期刊行の電子新聞/雑誌を「購読(subscription)」すると、バックグラウンドでダウンロードされ、いつでも最新の新聞/雑誌を読めるようになる。売り切りのiBooks、定期購読のNewsStandという感じだ。

「NewsStand」

Twitter

 iOS 5では標準機能でTwitterをサポートする。アカウントや設定情報をシステム側で管理し、iOSのフレームワーク側でTwitterへのログインやツイートの送信を受け持つ。アプリケーション開発者は、Webサービスに必須とされる(しかし複雑な)認証方式「OAuth」などの実装を個別に行なわなくても、独自アプリにTwitter関連機能を搭載させることが容易になる。

利用例として標準のカメラアプリで撮影した写真を、その場でツイートするデモが実演された

Safariの機能強化

 フォースタル氏により、iOS用「Safari」がモバイルブラウザーシェアのうち64%を獲得したこと(2011年4月現在)、またiSO 5ではさらに新機能「Reader」が搭載されることが明らかにされた。Readerは、すでにSnow LeopardのSafariで実装済みの機能で、画面サイズに制限のあるiPhone/iPad 2ではOS X以上に重宝するだろう。また、タブ機能のサポートも告知された。

iOS用「Safari」がモバイルブラウザーシェアのうち64%を獲得した(2011年4月現在)

任意のウェブページを再構成して表示する「Reader」

タブ機能もサポート

Reminders(リマインダー)

 Remindersのアイコンがスクリーンに表示されると同時に、観客から非常に大きな歓声が起きた。それぐらい誰もが待っていたのが、このリマインダー機能だ。その名前の通り、注意が必要な予定をリスト化するToDo機能で、OS XではすでにiCalに実装されている。もちろん、そのiCalのリマインダーとの同期が可能で、時刻が来るとiPhone/iPadが通知を行なう。

「Reminders」(リマインダー)

 従来は、OS X用iCalにリマインダーを入れていても、OS Xを使っていないときには意味がなく、またOS XとiOS機器を連動させるには有償サービスのMobileMeを利用する必要があった。今回のRemindersで、ポケットやカバンの中のiOS機器で通知が得られるようになり、利便性は高まるだろう。

Camera(カメラ)

 カメラアプリについても改善が加えられた。もっとも大きな点としては音量調整用の物理ボタンをシャッターとして使えることだろう。ズームについてもスライダーを操作するのではなく、画面上でピンチすることでズームできるなど、iOSらしい操作になっている。

新しいカメラアプリでは、音量調整用の物理ボタンをシャッターとして使える

 また、撮った写真を直接twitterに投稿できるのは先に述べたとおりだ。写真アプリについても、赤目補正などiPhotoにもあった修正機能が追加されている。

Mail(メール)

 Lionと同じく、標準搭載のメールクライアント「Mail」(メール)の強化が話された。インデント範囲の調整、リッチテキストの利用が可能になった。細かな話で恐縮だが、メールアドレスのドラッグ&ドロップがようやく可能になったこともうれしい新機能だ。

インデント範囲の調整、リッチテキストの利用が可能

PC Free

 iPhone/iPadの利用には、現在OS X/PC環境の存在が前提となっているが、iOS 5ではこれが不要になる。iPhone/iPad単体で利用できるようになるのだ。

 かつてはアプリや音楽のダウンロードにもOS X/PCが必要だったが、iOSのバージョンアップと共に緩和されてきており、現在でもほとんどのことがパソコンなしで行なえる。しかし、iPhone/iPadのアクティベーションのみパソコンが必要だった。

 iOS 5をインストールして出荷されるiPhone/iPadでは、電源を入れるとネットワーク経由でアクティベーションが行なわれ、即座に使えるようになる。このとき、Apple IDの同時取得も可能だ。

iOS 5搭載のiPhone/iPadでは、単体でアクティベーションが行なわれる。OS X/PCに接続しなくても、即座に使えるようになる。差分アップデートもサポートした

 日本国内の場合は、販売店でアクティベーションが行なわれていたため、ピンとこない方がいるかもしれないが、これは非常に大きな進歩だ。

Game Center

 おそらく、多くのiPhoneユーザーにとって一番の謎が「この『Game Center』って、何?」ということだろう。一見ゲームが遊べるのかと思うが、立ち上げても何も起こらない。iOS 4.1で搭載されたGame Centerは、対応ゲームアプリを使ってネットワーク越しに対戦プレーをしたり、スコアを競ったりするものだ。XBoxにおけるXbox Liveなど、最近の据え置きゲーム機でよくある機能である。

 iOS 5では、Game Centerも強化され、ターン制で進行するタイプの対戦ゲームをサポートしたり、App StoreではなくGame Centerから直接ゲームをダウンロードできるなど、より便利になっている。

iOS 5では、Game Centerから直接ゲームをダウンロードできる

iMessage

 「iMessage」は、iOSデバイス(おそらくLionも)がサポートするメッセージング機能だ。SMSやMMSと異なりキャリアと契約しなくても使えるうえ、キャリアごとの違いを意識せずチャットが行なえる。見た目はiPhoneのSMSやiChatとそっくりで、慣れたユーザーならすぐに使いこなせるだろう。

「iMessage」は、iSMSやMMSと異なりキャリアと契約しなくても使えるうえ、キャリアごとの違いを意識せずチャットが行える

「iOS 5」の情報に聞き入る開発者達

 Lionの発表とiOS 5との違いは、Lionでは新機能のスライドが表示されるとすぐに大きな歓声が起こったのに対して、iOS 5では最初は「?」といった感じで歓声が少なかった点だ。しかし、説明が続くにつれて新機能の意図が理解され、それぞれ説明が終わる頃には大きな歓声が起こるというパターンがほとんどだった。

 これは、WWDC 2011における、LionとiOSに対する期待度の差ではないかと思われる。

 昨年のWWDC 2010は、まさに「iOSの年」であり、iSO 4についての情報は豊富だったが、OS Xにはほとんど言及されなかった。そのため、次期OS Xを待ち望む開発者にとって今回のLionは2年ぶりの「革新」にあたり、しかもウェブサイトでも事前に機能が提示されたことから、否応なく期待が高まっていた。それが、観客の反応の速さとなって表われたのだ。

 一方、iOS 5に関して事前情報がほとんど存在せず、新機能の説明に対して「まずは聞いてみたい」という心理が働いたものと考える。反応のスピードは違えど、どちらのOSも期待と歓迎の拍手を持って受け入れられたことは間違いない。

(次ページに続く)

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